研究課題/領域番号 |
20H02611
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
原田 尚之 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (90609942)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 薄膜 / デバイス / 半導体 / 酸化物 / 高温エレクトロニクス |
研究実績の概要 |
これまで、半導体デバイスは室温・大気中で用いられることが前提だった。一方で、IoT社会では半導体デバイスの動作環境は必ず多様化する。例えば、電気自動車、工業プラントのセンサーや制御系では、半導体デバイスは数100℃の高温にさらされ、この過酷な温度環境下で安定に動作する必要がある。海底や地中などの自然環境では、腐食せず長期間動作しなければならない。原子炉や航空宇宙用途では強力な放射線に曝される。しかしながら、現在主流のシリコンデバイスでは、シリコンのバンドギャップ1.1 eVに由来して、200℃を超える温度での動作は原理的に不可能である。加えて、高温や放射線下ではデバイスの重要な構成要素である金属電極の酸化や原子拡散・欠陥生成による劣化が深刻な問題となる。したがって、過酷な環境での安定動作を実現するには、シリコンに代わるバンドギャップの大きな半導体(ワイドギャップ半導体)に、高温で安定な金属電極を結合してデバイスを構築する必要がある。IoTで急速に多様化する用途に対応するために、「耐環境デバイス」の開発が急務である。 本研究では、新しい金属材料として、デラフォサイト型酸化物に着目する。デラフォサイト型酸化物の中でもPdCoO2, PdCrO2, PdRhO2, PtCoO2の4種は、銀、銅などの単体金属に匹敵する高い電気伝導性と、pH=0の強酸やpH=14の強アルカリにも溶けない優れた化学耐性を持つ。これらの金属性デラフォサイト型酸化物を用いて、多様な環境下で動作可能な半導体デバイスを構築する。 今年度は、これまでに確立したPdCoO2/β-Ga2O3の高周波特性の測定、PdCrO2薄膜の作製方法の確立、薄膜大面積化に向けたスパッタ装置の立ち上げを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高周波特性評価などPdCoO2/β-Ga2O3系のデバイス特性評価はかなり進展があった。特に、ダイオードのスイッチング速度の指標である、逆回復時間τ=11 nsを達成できたのは大きな成果と考えている。今後、既存のデバイスに対して素子特性として優位性を持たせるのに必要な、Ga2O3部のキャリア密度最適化や素子構造の最適化が必要である。また、今年度はPdCrO2薄膜の作製法を確立することができた。デラフォサイト型金属は、薄膜結晶成長方法がPdCoO2以外未開拓であったが、今後の進展につながる成果と考えている。スパッタ装置の立ち上げについては、研究代表者の異動により所属が変わり、配電設備などの装置の設置環境を整備する必要が生じたこと、コロナ禍の影響で装置の組み立てに当初より時間を要したことなど、予想外のことが重なった。これらの理由で、スパッタ法による薄膜作製条件の検討は当初の予定よりやや遅れており、今後の課題である。研究計画全体で考えると、デバイスの評価と新規デラフォサイト薄膜の作製は予定通りかそれ以上に進展し、薄膜の大面積化は予定よりやや遅れている。今後取り組むべきことは非常に明確なので、おおむね順調に研究が進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まずはスパッタ法により、デラフォサイト型金属薄膜の大面積化に取り組む。共スパッタ法による薄膜成長方法に加え、ターゲットの開発も進める予定である。薄膜成長とX線回折による結晶構造評価で、c軸配向した薄膜を作製できる条件を探索する。うまく薄膜が作製できた場合は、クリーンルーム設備を利用してダイオードやトランジスター構造を作製し、室温や高温でのデバイス特性を評価する。PdCoO2/β-Ga2O3界面を利用したデバイスを応用展開につなげるのが重要な目標と考えている。企業や他の研究機関との協力を探索しながら、応用を目標に研究を進める。また、高温以外の様々な環境下でのデバイス動作・耐久性の実証に取り組む。デラフォサイト型金属薄膜自体の結晶品質向上は、デバイス界面の耐久性や特性の向上に重要である。現状の薄膜は、c軸配向であるが、面内180°回転ドメインのある双晶である。今後、面内180°回転ドメインの形成を抑制し、デラフォサイト型金属薄膜を単結晶化する方法を確立したい。
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