研究課題/領域番号 |
20H02612
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
島津 武仁 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 教授 (50206182)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 原子拡散接合法 / 接合界面 / 光透過率 / 接合強度 / 室温接合 |
研究実績の概要 |
下地酸化物薄膜を利用した原子拡散接合法を用いて,300℃以下の低温熱処理により接合界面の金属を酸化させて光学的吸収を消失させる新しい接合プロセスを実現するため,本年度は,下記の2つの項目について実施した. 一つ目は,下地酸化膜による薄い接合金属膜の酸化機構の解明と制御法の検討である.下地酸化膜を形成した石英ウエハを,膜厚1 nm以下の金属薄膜を用いて真空中の原子拡散接合法で接合した.Ti薄膜を用いた予備実験の結果,スパッタ法で形成したSiO2およびAl2O3薄膜ではTi膜をほとんど酸化させることが出来なかったため,IAD法で成膜したSiO2膜を用いて接合金属膜材料の違いを比較した.接合金属膜は,酸化物の生成自由エネルギーと酸化物が形成された際の透過率等の観点から予定していたTi,Zr,Nb,Alの他に,Hf,Siについても実験を行い,全体的な概要把握を先行させた.膜厚は片側あたり0.2~1 nmとした.300℃の熱処理を施した後の接合界面の表面自由エネルギーγは,Ti,Zr,Hf,Nbの各薄膜を用いた場合には,全膜厚領域で2 J/m2以上を得ることができた.Al,Si薄膜を用いた場合は,それぞれ,膜厚0.3 nm以上,および,膜厚0.5 nm以上で2 J/m2以上となり,酸化度合いが異なることが示唆された. 二つ目に,400~700 nmの波長範囲の接合界面の光の透過率・吸収と構造を解析した.Ti,Zr,Hf,Nbの各薄膜を接合に用いた場合は,膜厚1 nmでも300℃熱処理後に100%の透過率を得ることができた.Al,Si薄膜を用いた場合には,膜厚0.5 nm以下で同様な結果が得られた.また,一部の材料に関して断面TEMおよびEELSによる構造解析を行い,薄膜材料によるγならびに透過率の挙動の違いと接合界面の構造との関係解明の研究に着手した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スパッタ法により形成したSiO2およびAl2O3薄膜は,酸素の乖離が非常に少なく本研究に適さないことが,Ti膜を用いた予備実験で判明した.その結果,早い段階でIAD-SiO2膜に絞った研究に焦点を当てることができた. 一方,接合金属膜については,当初予定のTi,Zr,Nb,Alの他に,Hf,Siについても材料を拡張した.これは,酸化物の生成自由エネルギーと透過率ならびに屈折率調整の観点だけでなく,高輝度の光耐性に関係する酸化物のバンドギャップの違いについても,総合的な検討ができるようにするためである.これにより,全体的な概要を把握する研究を先行することができた点は,良かったと考えている. 解析の結果,Ti,Zr,Hf,Nbの各薄膜を用いた場合には,300℃熱処理後において,0.2~1 nmの全膜厚領域(片側あたり)で,接合界面の表面自由エネルギーγが2 J/m2以上の大きな値が得られ,また,接合界面の光透過率(波長400~700 nm)が100%を得ることが出来た.この点は,本接合プロセスの有効性を示す上で非常に有意義であった.一方,Al,Si薄膜を用いた場合にも,膜厚領域を限定することで,接合強度と光透過率を両立する目処が付いた.これらの材料は,高輝度耐性に関して魅力的な材料であり,早い段階で材料間の違いの概要がわかった点は良かったと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
R2年度の研究成果を基盤として,R3年度は,下記の2つの項目について研究を継続する. 一つ目は,下地酸化膜による薄い接合金属膜の酸化機構と制御法の検討である.R2年度に引き続き,下地酸化膜を形成したウエハを,膜厚1 nm以下の金属薄膜を用いて真空中の原子拡散接合で接合するプロセスにおいて,酸化機構と制御法の検討を行う.R2年度の結果から,IAD法で形成したSiO2膜に焦点を絞って実施する.基板は石英ウエハを用いる.接合金属膜については,R2年度に,当初予定していたTi,Zr,Nb,Alに加えて,Hf, Siについても実験を行い,全体的な概要を把握する研究を実施したため,本年度は,引き続きこれらの材料を用いて,接合強度(ブレード法により実施)の膜厚依存性の詳細な評価を行い,下記二つめの項目で実施する光学特性と構造の評価結果を元に,酸化膜からの酸素による接合金属膜の酸化と接合強度を両立する制御手法を確立する. 二つ目は光の透過率・吸収率の評価と酸化機構の解明である.R2年度に引き続き,接合したサンプルの接合界面における光透過率・吸収率を評価し,400℃までの低温熱処理温度の増加にともなう光学特性の変化から,酸化の促進度合いを評価する.これらの結果と,構造(TEM,EELS)の解析結果,ならびに,上記1の項目の結果から,接合金属膜の酸化機構を総合的に解明する. これにより,最終年度には,接合する光学ウエハの屈折率に合わせて,下地酸化膜および接合金属の種類を選択することで,完全透明で屈折率調整が可能な接合界面を有する完全無機の低温接合技術の提案に結び付けたい.
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