研究課題/領域番号 |
20H02614
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
片山 司 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (50784617)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 機能性酸化物薄膜 / 強誘電 / 磁性 |
研究実績の概要 |
遷移金属酸化物は遷移金属元素の種類と結晶構造の組み合わせにより、光触媒・高温超伝導・巨大磁気抵抗・強誘電などの多種多様な物性を示すため、基礎研究から応用開発まで精力的な新奇物性探索が展開されている。中でも最近注目され始めたのが、ナノドメイン構造制御による機能拡張である。例えば、ドメイン境界を活用することでバンドギャップ以上のエネルギーの光起電力を得ることや、磁気スピン秩序を反強磁性から強磁性に変調すること、さらに二次元超伝導の発現など様々な新奇物性が報告されている。この様なドメイン由来の新奇物性を広く活用する上で、高密度ドメインを酸化物中に形成することが重要となる。しかしながら、これまで酸化物薄膜でのドメイン密度(単位面積当たりのドメイン数)は小さく、マクロ物性への影響は限られていた。2020年度、申請者はマルチフェロイック材料の六方晶希土類酸化物(h-RFeO3)系材料に注目し、研究を進めた。これまでh-RFeO3では強誘電のみが報告されていたが、申請者は希土類イオンの大きさを制御することで、h-RFeO3薄膜内にP63cm構造とP-3C構造から成る高密度ドメインを膜内に形成し、この系で初めての室温反強誘電特性の発見に成功した[J. Kasahara, T. Katayama et al., ACS Appl. Mater. Interfaces 13, 4230 (2021)]。またこの反強誘電相は10Kから300Kの広い範囲で観察することができた。さらに磁気誘電率を調べたところ、その符号が温度や磁場によりスイッチすることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では2020年度は、高密度ドメインを酸化物中に形成する手法の開拓を主にしており、新奇物性発現は来年度以降の予定だった。しかし、申請者はマルチフェロイック材料の六方晶希土類酸化物(h-RFeO3)系材料において、P63cm構造とP-3C構造から成る高密度ドメインを膜内に形成し、この系で初めての室温反強誘電特性の発見にすでに成功した。このように初年度から高密度ドメインと物性面との大きな相互作用を見出すことができたため、当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に申請者はマルチフェロイック材料の六方晶希土類酸化物(h-RFeO3)系材料において、P63cm構造とP-3C構造から成る高密度ドメインを膜内に形成し、この系で初めての室温反強誘電特性の発見に成功した[J. Kasahara, T. Katayama et al., ACS Appl. Mater. Interfaces 13, 4230 (2021)]。この様な反強誘電材料では電場により強誘電構造と反強誘電構造をスイッチングすることができるため、巨大な電気熱量効果が生まれることからも注目を集めている。またh-RFeO3はマルチフェロイック材料(磁気秩序と強誘電秩序の二つの強的秩序を併せ持つ材料)のため。磁場による強誘電-反強誘電スイッチングも可能である期待がある。そこで2021年度、申請者は磁場印加による強誘電-反強誘電スイッチングを目指す。この目標実現には、膜内のナノドメイン構造を制御する必要がある。本研究では元素置換法や基板からのエピタキシャル歪みを緩和させる方法などを用いることで、それを可能にする。また、h-RFeO3以外の他の材料系に対しても研究を進める。特に室温マルチフェロイック材料であるGaFeO3型材料や、強磁性-反強磁性転移などの特異な磁気物性を示すダブルペロブスカイトRBaCo2O5.5等に注目し、その材料のナノドメイン化とドメイン制御、そして新たな物性開拓を進める。
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