研究実績の概要 |
2022年度、申請者はダブルペロブスカイト構造を有するRBaCo2Ox (Rは希土類)に注目し、研究を進めた。ダブルペロブスカイトGdBaCo2OxはAサイトのGdとBaがc軸方向に交互に整列し、秩序を有している。GdBaCo2Oxはスピンクロスオーバーや電荷・スピン状態の配列、磁場または光誘起反強磁性から強磁性への相転移、大きな磁気抵抗(MR)など、様々な魅力的な電子的・磁気的特性を持つ有望な材料である。これらの特性は酸素含量(x)を変えることで制御でき、xを増やすことは強磁性秩序を安定させるために効果的である。しかし、歪んだ配位幾何学が酸素欠陥を好むため、化学量論的な相(x=6)はまだ得られていなかった。そこで、申請者は、x=5.5の薄膜をトポタクティック酸化することにより、GdBaCo2O6薄膜を作製することに成功した。x=5.5相と6相の変換は低温酸化還元反応により可逆的だった。x=6の膜はキュリー温度(TC)の110K以下で強磁性および金属的振る舞いを示し、TC以上で半導体的振る舞いを示した。x=6の膜の自発磁化は4.8μB/f.u.であり、Co3.5+とGd3+の強磁性相互作用により、ダブルペロブスカイト型コバルト酸化物系で最大の値を示した。また、a軸方向(1.7×107 erg/cm3)に強い磁気異方性と、c軸方向のGd/Ba配列に関連する異方的MR振る舞いも示した。さらに、理論的な計算では、x=6の膜の金属性は、中間スピンCo3+と低スピンCo4+の間の二重交換相互作用に起因すると予測さた。これらの結果はT. Katayama et al., Chem. Mater. 2023, 35, 1295-1300.に掲載されている。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度、申請者はマルチフェロイック材料の六方晶希土類酸化物(h-RFeO3)系材料に注目し、研究を進める。これまでの研究で、申請者は希土類イオンの大きさを制御することで、h-RFeO3薄膜内にP63cm構造とP-3C構造から成る高密度ドメインを膜内に形成し、この系で初めての室温反強誘電特性の発見に成功した[J. Kasahara, T. Katayama*, ACS Appl. Mater. Interfaces 13, 4230 (2021).]。さらに、膜厚を系統的に変化させることで強誘電―反強誘電相転移を温度変化により引き起こすことに成功した[B. Chen, T. Katayama* et al., J. Mater. Chem. C 10, 5621 (2022).]。この強誘電-反強誘電転移を利用することで、磁場による大きな誘電特性変調を狙う。従来、マルチフェロイック材料では磁場による誘電特性の変調は微々たる値に留まっていたが、強誘電-反強誘電転移の境界では大きな誘電特性変化が期待できる。
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