研究実績の概要 |
遷移金属酸化物は遷移金属元素の種類と結晶構造の組み合わせにより、光触媒・高温超伝導・巨大磁気抵抗・強誘電などの多種多様な物性を示すため、基礎研究から応用開発まで精力的な新奇物性探索が展開されている。中でも最近注目され始めたのが、ナノドメイン構造制御による機能拡張である。例えば、ドメイン境界を活用することでバンドギャップ以上のエネルギーの光起電力を得ることや、磁気スピン秩序を反強磁性から強磁性に変調すること、さらに二次元超伝導の発現など様々な新奇物性が報告されている。この様なドメイン由来の新奇物性を広く活用する上で、高密度ドメインを酸化物中に形成することが重要となる。しかしながら、これまで酸化物薄膜でのドメイン密度(単位面積当たりのドメイン数)は小さく、マクロ物性への影響は限られていた。本研究では高密度ドメインを有する酸化物材料の合成手法開拓と物性開拓を進めた。 申請者はマルチフェロイック材料の六方晶希土類酸化物(h-RFeO3)系材料において、P63cm構造とP-3C構造から成る高密度ドメインを膜内に形成し、この系で初めての室温反強誘電特性の発見に成功した[J. Kasahara, T. Katayama* et al., ACS Appl. Mater. Interfaces (2021)]。この様な反強誘電材料では電場により強誘電構造と反強誘電構造をスイッチングすることができるため、巨大な電気熱量効果が生まれることからも注目を集めている。またh-RFeO3はマルチフェロイック材料(磁気秩序と強誘電秩序の二つの強的秩序を併せ持つ材料)のため磁場による強誘電変調も期待されていた。本研究では磁気相転移に伴う強誘電特性の変調についても研究を進めた[Y. Liu, T. Katayama* et al., ACS Appl. Mater. Interfaces (2024)]。
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