研究課題/領域番号 |
20H02618
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
種村 眞幸 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30236715)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 2次電池 / 負極 / リチウム / 透過電子顕微鏡 / その場観察 |
研究実績の概要 |
本研究は、透過電子顕微鏡(TEM)その場観察により得られる2次電池充放電時のLiおよび電極材料の原子レベルでの挙動解析の知見を基に、安全性が高くハンドリングが容易で高性能なLi系負極の開発を行うものである。 (a) Li-C複合材を用いた静的および充放電その場TEM観察:前年度完成させた特型試料作製装置を本格稼働させ、Li系複合材の合成を行った。Liの添加効果に加え、電極表面の起毛化による表面積効果検証用の試料作製も行った。その場TEM観察では、充放電後に収束イオンビーム加工等の後処理でTEM観察用試料を作製する常套手段は行えないことから、箔状電極端面への起毛化処理はこのその場TEM観察用試料作製の観点からも有用であった。 (b) 電池の試作と特性評価:Li-C複合材について、電解質として一般的な六フッ化リン酸リチウムを用いて電池を組み立て充放電特性評価を行った。この充放電特性評価では、十分なLi含有量を確保するための平板状電極試料と、TEM観察用の箔状電極試料を用いた。この特性評価では、初期の結晶構造変化に特に着目した。電池容量は添加Li量に依存するとともに、起毛化処理による表面積にも大きく依存した。また、僅か2サイクルの充放電により厚さ数十nmに及ぶSEI(Solid Electrolyte Interphase)層が電極表面に形成されることが、TEM観察により明らかにされた。 (c) その場TEM観察用固体電解質および正極の検討:電池特性評価によって非常に容易に形成されるSEIは固体電解質としても利用可能であることから、先鋭な針状電極表面にあらかじめSEIを形成し、その後、その針状電極をLi-C複合材に接触させることでその場TEM観察を可能とした。正極の検討では、Zn、Mn、Ge、Siをはじめとする種々の金属複合系材料の合成・評価技術を確立することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年初に計画した、(a) Li-C複合材を用いた静的および充放電その場TEM観察、(b) 電池の試作と特性評価、(c) その場TEM観察用固体電解質および正極の検討の何れの項目も実施することができた。これらの実験で得られた成果を含めて国際会議10報(うち招待講演6報)、国内会議3報の報告を行った。併せて、これまでに得られた種々の金属複合系材料の合成、および、その場TEMによる結晶構造変化の動的観察技術を総合的にまとめ、著書として出版した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、特型試料作製装置を用いて合成されたLi系複合材について、電池特性評価前後の静的TEM観察による材料の精密なキャラクタリゼーションと充放電その場TEM観察を平行して行う。前年度、金属-Cをはじめとする種々の金属複合系材料、とりわけナノ粒子含有複合材の合成・評価技術を確立することができた。これらの材料系も電極材料等として静的及びその場TEM観察に活用する。併せて、SEI層もTEM観察用固体電解質として利用可能であった。これらを用いた静的・その場TEM観察の知見を基に、Liの出入りに伴う正極の膨張、結晶構造の劣化の観察と抑制法も検討する。 前年度、一般的な電解質である六フッ化リン酸リチウムを用いた電池特性評価を行い、SEI層の形成に関する知見を蓄積するとともに、電極層の剥離の問題を新たに指摘することができた。本年度もこの電池特性評価を継続し、併せて、X線光電子分光法(XPS)などによる電池特性評価前後の組成・化学状態解析も援用することで、TEMの観察データを総合的に解析し電極材料開発を進める。
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