研究課題/領域番号 |
20H02624
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
木本 浩司 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, 拠点長 (90354399)
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研究分担者 |
吉川 純 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, 主任研究員 (20435754)
Cretu Ovidiu 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, 研究員 (60770112)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 透過電子顕微鏡法 / ソフトマテリアル / 材料評価 |
研究実績の概要 |
物質材料の微細構造の評価は研究開発の基盤であり、数ある計測手法の中でもTEMは広範な材料に利用されている。しかしLi蓄電池材料など軽元素を含む材料群や、単原子レベルで制御されたナノ材料群では、電子顕微鏡観察中の試料損傷が著しくなりTEMの適用が大幅に制限されている。それらのいわゆるソフトマテリアルの材料解析を可能とする電子顕微鏡の要素技術の開発が求められている。本研究ではソフトマテリアル評価のため、電子を計数できる電子顕微鏡法のための要素技術を開発し、STEM およびEELSへの展開を行ってきている。 本年度、検出系を定量的にして電子数に変換できるようにする技術開発を行い、電子計数型電子顕微鏡法のための要素技術開発と、STEMおよびEELSへの展開を行った。 電子計数の基本は、シンチレーターの単電子による発光効率の定量計測である。シンチレーター型CCD、EELS用高速CCD、高輝度シンチレーター型CCD、シンチレーター型CMOS、EELS用高速CMOSなど、現在使用されている主要な全ての検出器について解析した。加速電圧によって異なることから、40, 80, 300kVにおいて電子計数のために必要な変換係数(conversion efficiency)を計測し、基礎データが整えた。既存のSTEM検出器の発光効率の加速電圧依存性などに加え、2021年度に導入したHAADF検出器についてもその基本動作を確認した。 新規に導入した電子顕微鏡の計測システム(Ametek社GIF Continuum)に、計測結果をソフトウエアとして組み込みすべてのユーザーが使えるようにし、最新の計測結果を書籍「物質・材料研究のための透過電子顕微鏡」講談社(2020)の増刷(2021年7月)時に改訂した。加えて、NIMSが進める先端計測データベースへ計測結果の提供を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で目的としたパルスカウンティング型検出器の導入と基本特性の評価、およびソフトウエアの組み込みは計画通り進んだ。 昨年度までは、STEM像への展開が主であったが、2021年度よりEELS分析法についても開発技術の展開が進んだ(J. Kikkawa, T. Taniguchi, K. Kimoto, Physical Review B 104 (2021) L201402)。これらの計測ではさまざまな加速電圧でEELSやTEM像、Diffraction図形を計測しているが、それらを電子数として計測できている点で優れている。 さらに波及効果として、データベース化のためのデータ構造化への貢献があげられる。データ駆動材料研究において、先端計測データのデータベース化は必須であるが、信号強度については一般的には任意単位あるいはCCD/CMOSカウント数として提示されるだけであった。メタデータ構築の際、これまでの計測結果とソフトウエア開発の実績を生かして、データベース登録時に物理的に意味のある強度指標を提供している。
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今後の研究の推進方策 |
1)材料評価への展開とデータベース化 当初計画時に最終年度に計画していた、蓄電池関連材料の標準スペクトルデータベース化を一部先行して行っており、それらをさらに進める。電子計数型のSTEM像についても一部データベースとして登録している。これらの技術は、今後データ駆動型材料開発研究において重要な基盤技術の一つとなると考えている。 2)計測結果のソフトウエア・データベースとしての公開 先端的な電子顕微鏡に関する研究成果は、これまで論文・解説記事に加えてウェブサイトなどでも公開してきた(https://www.nims.go.jp/AEMG/research_E.html)。今後はさらに研究成果を公開していくとともに、データベースも公開できるものは一部公開していく。 3)新たな材料系への挑戦 これまで無機材料系のソフトマテリアルとして、TiO2などの酸化物系ナノシートなどを観察してきた。今後はグラフェン・ナノチューブ・ナノホーンなどさらに原子番号の小さなソフトマテリアルの計測に取り組む。
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