研究課題/領域番号 |
20H02627
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研究機関 | 一般財団法人ファインセラミックスセンター |
研究代表者 |
山本 和生 一般財団法人ファインセラミックスセンター, その他部局等, 主席研究員 (80466292)
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研究分担者 |
吉本 則之 岩手大学, 理工学部, 教授 (80250637)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 有機EL / オペランド計測 / 電位分布 / 電子線ホログラフィー / 透過型電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
2021年度は,前年度の研究成果を学術論文としてまとめあげるところから始めた.電子輸送層(n-type)であるAlq3と正孔輸送層(p-type)であるalpha-NPDを,ITO (Indium-Tin-Oxide)/ガラス基板上に成膜した有機EL試料について,位相シフト電子線ホログラフィーにより電位分布を直接観察した.この成果をApplied Physics Expressに掲載することができた.また,岩手大学と共同でプレス発表も行った.
次の展開として,有機EL試料の発光メカニズムと劣化メカニズムを明らかにすることである.Alq3/alpha-NPDの2層膜,および,Alq3/Rubrene(発光層)/alpha-NPDの3層膜をそれぞれ作製し,発光および劣化の確認を行った.今回の試料は,有機膜/電極の成膜から発光/劣化の測定までを,すべて大気非暴露で行った.2020年度に導入した有機半導体膜 成膜装置は,大気非暴露で成膜,搬送を行えるように設計してあるため,発光/劣化の測定は既有のグローブボックス(Ar雰囲気)内で行った.大気非暴露で行うことで,発光する閾値電圧が10 V以下にまで下がり,劣化速度も緩やかになったため,大気非暴露の環境下で実験を進める必要性があることがわかった.劣化箇所を特定するため,劣化した試料のTEM試料を作製し,電子線ホログラフィーで観察した.その結果,alpha-NPD膜に大きな変化があることがわかった.TEM像からも劣化の状態を判断できたため,何かしらの分解が起こったと考えられる.また,劣化前の試料も同様に観察した結果,alpha-NPD膜は正常であった.従って,劣化箇所は,alpha-NPD膜が原因であることがわかった.今後,STEM-EDSによる元素分析や劣化箇所の再現性を確かめる実験を計画している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ計画通り進んでおり,有機EL2層膜の電子線ホログラフィー結果を学術論文としてまとめることができた.また,有機EL2層と3層膜の発光および劣化のマクロ特性も測定することができ,劣化後試料において,alpha-NPD膜に原因があることを突き止めた.劣化箇所を特定することで,どこに強電界がかかっているかを予想することができ,発光メカニズムの解明にも繋がると期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いたエネルギー分散型X線分光法(STEM-EDS)または電子エネルギー損失分光法(STEM-EELS)を用いて,劣化後の試料の元素分析を行い,組成の変化を確かめる.また,劣化前の試料の位相シフト電子線ホログラフィーを行い,どこに強電界が生じているかを特定する.このことにより,発光と劣化のメカニズムを予想することができる.この一連の実験の再現性も確かめる必要があるため,少なくとも3,4回は同様の実験を行う必要がある.結果が出次第,論文としてまとめる準備を行う予定である.
また,発光層(Rubrene)を挟んだ3層の有機EL膜の試料についても同様に行う.Rubrene層を挿入することによって,Alq3/Rubrene界面やalpha-NPD/Rubrene界面で,バンド構造がどのように変化するかを直接観察することで,キャリアの動きを予想できる.このことによって,各層の役割を明らかにできると考えている.研究分担者の吉本教授と共に,Web会議などで議論を行い,これらの結果を論文としてまとめる.さらに,透過型電子顕微鏡(TEM)内でオペランド観察可能なTEM試料の作製条件やTEMによる観察条件をつめ,発光中の観察に着手する計画である.
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