研究課題/領域番号 |
20H02628
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
百生 敦 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (20322068)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | X線顕微鏡 / 回折格子 / 二光束干渉 / X線CT |
研究実績の概要 |
本研究は独自の光学系によって、X線顕微鏡下の二光束干渉による位相イメージングおよび位相CTの実現を狙っている。具体的には、フレネルゾーンプレート搭載のX線顕微鏡(Carl Zeiss Xradia 800 Ultra)に狭周期格子を組み合わせる。実験室X線源を用いる本装置では、X線の空間的干渉性が十分ではない。そこでこれまで、振幅格子を試料上流に配置し、その結像位置に位相格子を配置するLau干渉計をX線結像光学系と融合させてきた。その結果、正負逆符合の位相像が特定距離(シアー距離)離れて重なり合った画像が生成され、これから単一の位相像を形成して、顕微位相CTを実現する研究を進めてきた。しかし、画像処理アルゴリズム上の困難さが残っている。 この問題に対処する方策としては、①位相格子の周期を短くし、シアー距離を視野サイズ近くまで広げること、あるいは、②±1次の回折効率が高いπ型位相格子で単純な二光束干渉を目指すことが挙げられた。 まず②について、Si製のπ型位相格子をD-RIEで作製し、シンクロトロン放射光による検証実験を行なった。その結果、±1次の干渉に加えて、1次と3次の干渉、-1次と-3次の干渉…、と複数の二波干渉が生じて画像が複雑になってしまう問題が露見した。これは、矩形格子を用いている以上避けられない現象であるとの認識のもと、①の方針をとることとした。上記X線顕微鏡のワーキングスペースを鑑み、π/2型位相格子に指定できる周期の範囲、および、それに合わせる吸収格子の周期について光学設計を行い、周期1umのSi製のπ/2型位相格子を作製し、それに合わせた吸収格子を設計・調達した。二重像の処理方法については、複素デコンボリューション法などのアプローチをアルゴリズム化した。今後、格子の評価を含めて、二光束干渉X線顕微鏡のPOCを実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
光学設計において、回折格子からの高次の回折の影響が当初の見積より大きいことが実験によって露見し、光学設計の見直し等で予定以上の時間を要した。 加えて、地震によってX線顕微鏡装置が稼働不可となる時期が複数回発生し、光学系の再構築、あるいは、顕微鏡装置の修理の必要性から、顕微鏡装置の稼働率が上がらないとう問題を抱えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果に基づく方針として、今後π/2型位相格子を用いた光学系で研究を推進することとした。その周期は1umとしたが、シアー距離が撮影視野とほぼ等しくするにはより狭周期の格子開発が必要ではあるが、製作技術上の限界に近い周期となっているので、この周期にて二光束干渉X線顕微鏡のPOCを急ぐこととする。この条件では、位相二重像の処理が依然必要となるが、既に複素デコンボリューション法を考案しているので、それを適用するか、あるいはその改善版を模索することを前提にする。この検討の中で、逆に周期の大きい格子を採用し、シアー距離を小さくするアプローチについても関心が生じた。シアー距離が小さい場合、複素デコンボリューション法適用時に生じるアーチファクトが抑制される可能性があるからである。位相格子と一緒に設置するために準備した吸収格子は、複数の周期および複数の開口比を持つパターンを複数個同時に形成したものであり、上記の目的に対応できるように配慮済のものである。 当該X線顕微鏡のメーカーであるCarl Zeiss X-ray Microscopy社(米国)とは、本研究と並行させて共同研究を進めており、このところはオンラインによる技術交流のみであるが、上記開発について議論しながら進めている。同社にとっては、本二光束干渉X線顕微鏡の構成が回折格子オプションとして将来の製品搭載の可能性を視野に、本開発は位置づけられている。 以上、これまで準備したX線格子の評価および二光束干渉X線顕微鏡のPOCを急ぐ。
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