研究課題/領域番号 |
20H02631
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
浦野 千春 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究グループ長 (30356589)
|
研究分担者 |
永崎 洋 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 首席研究員 (20242018)
三澤 哲郎 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究員 (40635819)
内藤 裕一 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (80392637)
石田 茂之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (90738064)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 超伝導 / 高温超伝導 / ジョセフソン接合 / ヘリウムイオン顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究では銅酸化物高温超伝導体YBa2Cu3O7で構成されるジョセフソン接合アレーを基準信号源(量子化された擬似白色雑音源)として用いた 小型・高性能雑音温度計を開発する。超伝導転移温度が90 Kの超伝導体でジョセフソン接合をつくれば、冷凍機を小型化できるため、雑音温度 計の性能と利便性が格段に向上すると期待される。ヘリウムイオン顕微鏡技術を用いたnmレベルでの微細構造部物性制御・加工技術により、これまでの素子作製上の課題を解決して集積化を実現し、スターリング式冷凍機の到達温度(40 K)において動作する量子電圧雑音源の実現を目指す。 2020年度は、大きく分けてジョセフソン接合の作製と素子の冷凍装置の開発を行った。ジョセフソン接合アレーの開発については、目標とするジョセフソン接合の設計パラメータから薄膜の仕様を決定した。ジョセフソン接合アレーの大規模な配線構造を形成するための基本的プロセス技術を確立した。ヘリウムイオン顕微鏡技術を用いてnmサイズの微細構造部物性制御(超伝導体層を金属および抵抗層へ変化)・加工手法を検討しジョセフソン接合形成に取り組んだ。ジョセフソン接合の設計パラメータの最適化のため、電流―電圧特性の評価、熱履歴特性を測定した。素子の冷凍装置の開発に関しては、トップロード式冷凍機用にマイクロ波を導入するためのインサートの開発と、無冷媒機械式冷凍機を用いた実験を行うための治具類の開発を行った。その他測定システムで用いる電子回路の開発を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナウイルス問題による出勤制限により、素子開発や実験装置の開発など、研究室での作業が必要な仕事を年度初頭の2か月ほど全く行うことができなかった。さらに出勤制限解除後も、産総研の共用装置であるアルゴンイオンミリング装置(高温超伝導体の大規模な電極構造の作製に利用)とヘリウムイオンビーム顕微鏡(ジョセフソン接合の形成に利用、本研究で主要な役割を果たす)も故障し、それぞれ2か月間程度利用できなかった。これらの理由により、素子開発は遅延を余儀なくされた。しかしながら、素子開発に関しては、高温超伝導体薄膜のプロセスのうち、大規模な電極構造の作製については、基本的技術は概ね確立できたと考えている。ヘリウムイオンビーム顕微鏡を用いたジョセフソン接合の形成に関しては、ヘリウムイオンビームの照射条件に応じて、ビームを照射した部分の物性を超伝導体から金属あるいは絶縁体に変えられることを電流-電圧特性の測定によって確認した。ただし、現時点ではジョセフソン接合が形成されたことを示す決定的な証拠を得るまでには至っていない。 素子の測定は現時点では市販の装置で行っているが、測定可能な素子数が限られており素子作成条件の最適化には適していない。また、シャピロステップの観測に不可欠なマイクロ波を導入する仕組みがないという問題がある。これらの問題を克服するために装置の改造・改良に取り組んできた。これらの開発についてはまもなく完了する見込みである。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度は素子の作製方法をおおまかに把握することを優先したため、直流特性の評価に特化した単純な構造の素子を開発し、その電流-電圧特性の評価によって基礎的なプロセス技術を確立した。本年度は、ジョセフソン接合のマイクロ波応答を評価できるような素子の作製に本格的に取り組む。具体的には、ジョセフソン接合以外の周辺回路要素(例えば、高周波導波路、立体配線技術、ローパスフィルターなど)を集積した素子を設計・製作する。そのような構造の素子を用いて、シャピロステップの周波数依存性およびパワー依存性を詳細に測定する。その結果をもとに、ヘリウムイオンビームの描画条件(加速電圧、ドーズ量、など)と得られるジョセフソン接合の特性との相関関係をより詳しく調べ、目標とする特性の接合を再現性良く作製する技術を確立することを目指す。さらに、高温超伝導体によるジョセフソン接合で得られるシャピロステップの値と従来型超伝導体(窒化ニオブ)によるジョセフソン接合によるシャピロステップの電圧を精密に比較し、ユニバーサリティーのチェックを行うことも計画している。昨年度の研究で、素子の作製過程で超伝導転移温度の低下や転移幅の増加といった様々な問題がたびたび発生したが、これらの問題の解決にも取り組む。 素子開発と並行して、高温超伝導デバイスの小型冷凍機での運用を目指して、スターリングエンジンを用いた40 K級の冷凍機の開発を行う。
|