研究実績の概要 |
本研究は中性子検出用途の有機シンチレータ結晶の研究開発を目的としている。有機シンチレータ結晶の発光をつかさどるπ結合を含み、π電子回りの結晶場(配位子場)の系統的な変化をみるために、母材の一部を置換した混合結晶も含め候補材料の結晶育成及びそのシンチレーション特性評価を進めた。本年度も引き続き、新規中性子シンチレータ結晶の探索を行った。アントラセンをフェニル基で置換した9-フェニルアントラセン、9,10-ジフェニルアントラセンについても昨年度に引き続き研究を進めた。他の育成結晶としてはアンスロンやN,N,N',N'-テトラメチルベンジジンといった結晶の育成にも成功した。これらの結晶の育成には、Self-seeding vertical Bridgeman (SSVB)法を用いて行い、結晶ごとに温度勾配、育成速度、アンプル形状等の育成条件を最適化し、クラックの少ない透明なバルク体結晶の育成に成功している。育成炉についても大型化に向けて改良を行い、安定した温度条件を保持できるようになった。新規に育成結晶を結晶性評価のためにロッキンカーブを測定したところ、その半値全幅は300 arcsec程度と良好であった。発光量としては241Amによる5.5MeVのα線照射により市販の中性子シンチレータガラスであるGS-20 の1.8倍を上回るものや、252Cfによる中性子照射時のシンチレーション寿命が10ns以下を示す材料が見つかった。π電子を有する結晶構造に着目し、類似構造を持つ候補材料を順次、結晶育成を行い、その発光特性等を評価することで、系統的に研究が進められた。
|