本研究は中性子検出用途の有機シンチレータ結晶の研究開発を目的として、有機結晶シンチレータの発光をつかさどるπ結合を含み、π電子回りの結晶場(配位子場)の系統的な変化をみるために、母材の一部を置換した混合結晶も含め候補材料の結晶育成及びそのシンチレーション特性評価を進めた。本年度も、新規中性子シンチレータ結晶の探索を進め、peryleneやtriphenyleneといったπ結合を構造に有する材料や前年度までに有望な特性を示した材料の構造の一部を置換した材料について結晶育成を試みた。育成手法にはSelf-Seeding Vertical Bridgman(SSVB)法を用いたが、蒸発・分解を呈する材料についてはメタノール等を溶媒とする溶液成長を実施した。これらの育成結晶について、その発光特性評価を行った。発光量としては市販のLiガラスシンチレータの2倍程度、シンチレーション寿命としては10nsを上回る高速な材料が見出された。また、なかでも良好な特性を示した材料については、放射線照射施設で中性子を照射し、発光スペクトル及び放射線耐性を評価した。更に、検出器用途に向け、1インチを超えるバルク結晶育成も実施し、透明なクラックフリーの結晶を育成した。 これまで、特に発光量とπ電子数密度の相関に着目し、π電子数密度の高い材料の結晶育研究を実施した。一部の材料で、電子数密度が高いが発光量の低いという相関の傾向に反する材料があり、これらは二量体の形成の影響の可能性があることが分かった。
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