研究課題/領域番号 |
20H02635
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
深津 晋 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (60199164)
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研究分担者 |
安武 裕輔 東京大学, 大学院総合文化研究科, 講師 (10526726)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超薄ゲルマニウム / マルチ軸応力 / 超高歪 / 擬似直接遷移化 / 室温電流注入光利得 / 強結合 / 微小共振器 / 励起子ポラリトン |
研究実績の概要 |
IV族半導体は一般に間接遷移型のバンド構造をもつため反転分布形成には不利である。異方性歪を内包するGeの間接・直接バレーの反転は、これに向けた有効な戦略でありながら遷移エネルギーの赤外シフトという問題を抱えていた。本研究では、精密制御した非等方的なマルチ軸応力を用いて問題の解決を図る。 薄膜接合、高精度エッチングおよびインターカラントエピタキシーの融合を通じてポテシャル分布を高度に制御し、超高歪ウルトラ薄膜Geの擬似直接遷移化と室温電流駆動光利得・レーザー発振の実現を目指す。初年度では、共同研究先の協力を得て犠牲層上のGeを基板に直接接合するHELLO 法を利用し、nmオーダーの超薄Geの形成を試みた。この際、石英基板上の超薄膜 Geと類似の酸化物をポテンシャル障壁とする深閉じ込め型の量子井戸が形成されるが、これを検証すべく直接端光学遷移の膜厚依存性を系統的に追跡した。反射、透過、蛍光測定など一連の線形分光の結果は一貫して量子井戸のサイズスケーリング効果を示し、バンドオフセットおよび有効質量の妥当な仮定の下で包絡線近似の計算と一致した。なお、励起状態間遷移への重い正孔のみの寄与や、井戸幅3nm以下での有効障壁高の低下などを今後、解明する必要がある。一方、面垂直共振器へのGe薄膜の導入を検討した。歪制御に加えて微小共振器による強結合とポラリトン凝縮の効果を取り入れる戦略により効光利得発生、レーザー発振へのショートカットを図った。面直共振器では光往復にともなう利得が小さいため高反射率鏡が必須であるが、薄膜堆積によるブラッグ反射器と既存反射器との接合の2通りを検討した。シミュレーションのためのモデルシステムとして高効率有機分子を用意し、励起子ポラリトンレージングの特性を調べた。その結果、後者の方がダメージ抑制には有効であり、低閾値かつ高い構造制御性が得られることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
構造形成に関しては、技術統合の眼目であるCaサーファクタント・インターカラント介在エピタキシーの完成が遅れている。これは予測できなかった超高真空タイプの薄膜成膜装置の経年劣化によって発生したダウンタイムのせいであるが、繰越し年度内に研究室内の戦力を集中させることで当初の繰越し計画より若干、長引いたものの漸く装置が通常運転モードに復帰し、定常稼働状態に入った。ゲルマネン類似単層物質のほか当初計画されていたX-actant介在エピタキシャル成長による超薄膜Geの作製にとりかかる準備が整いつつある。一方、光学評価に関しては、心臓部である励起用波長可変短パスレーザーと冷凍機の相次ぐ不調により予定した実験の遂行に支障がでていた。こちらも当初の繰越し計画よりも手間取ったが、継続運転に向けた応急修理が完了し、加速度的に実験がすすめられるようになったおかげで所望のデータが揃いつつある。電流注入についてはSiGe混晶とGeバルク結晶で検証ができており、Ge超薄膜への適用はすでに手の届く範囲にある。また、バンド構造の理論計算は計画どおりにすすめつつあるが、実験結果との突き合わせが本質的であり、本格的な利用は次年度以降となる見込みである。以上のように計画より進行のペース自体は遅れているものの、共振器形成法の目処がたったことで最終目標である光利得発生とレーザー発振に向けて研究を期間内に完了する上で障害はないものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
構造形成に関しては、初年度目標の2X-actant介在エピタキシャルによる超薄膜Ge作製に着手するとともに、これと同時に進行可能で完全直接遷移化が期待されるHexagonal (Hex)-Si.Ge超薄膜結晶の選択成長を機動的に推進する。具体的には、Ca/Ge(原子層)/Ca/Ge(原子層)構造をSi, Ge, Mica, SiO2上に成長し、インターカラントフッ化処理によりCaF2障壁層Cubic-Hexagonal構造混在のGe量子井戸形成を試みる。一方、結晶構造の解析との連携を模索し、高解像度TEMの結果をフィードバックして当初目標であったGe精密層数制御の攻略を試みるほか、超薄膜結晶の選択成長と光学評価に注力する。一方、マルチ軸機械歪の精密制御に関しては大きなバンド変調を基軸に、多軸積層ピエゾ機構を用いて静的応力とより大きな応力を印加可能な動的応力・撃力印加などを検討する。一方、面直光共振器に関しては、近赤外で高反射の超薄Geとの接合に適合するブラッグ反射器を吟味する。市販品の採用の傍ら専用の反射器を設計し、ファウンドリで作製することを検討する。 光学評価では電子の反転分布を必要とせず、光子レーザーよりも一桁以上も閾値が小さいGeの直接遷移端の励起子ポラリトンの実現を急ぐ。この際、レージングや利得発生にも有利な極低温環境を積極的に利用し、低温の検証から一気に室温動作を目指す。この際、とくにスプリットオフ正孔由来の電子ラマン遷移に注目するが、マルチ軸歪による遷移エネルギー変調を通じて縮退効果が狙える。一連の光学特性の実験結果を第一原理計算と30バンドk・p摂動法によって再現できるかどうかを検証する。
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