研究課題/領域番号 |
20H02636
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山田 明 東京工業大学, 工学院, 教授 (40220363)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 薄膜太陽電池 / カルコパイライト / 低電子親和力材料 |
研究実績の概要 |
本研究課題ではレジリエント社会の実現に向け,高効率太陽電池の開発を目的としてタンデム太陽電池用トップセルの開発を行なっている.2年目となる本年度は,トップセル用CuInS2(CIS)薄膜太陽電池およびワイドギャップ太陽電池用Zn-Ge-O薄膜の開発に注力して研究を進めた. 本年度は,デバイス品質のCIS薄膜の作製に注力した.CIS薄膜は,Mo電極付き青板ガラス基板上に金属Cuと Inを同時蒸着,作製した金属プリカーサをS粉末とともにカーボンケースに導入,アニールすることにより作製した.アニール温度を250℃から600℃まで変化させてX線回折を行ない膜構造を評価した.その結果250℃から350℃の低温度ではSとの反応によりCu2-xSとIn2S3が析出,これが400℃以上の高温度において相互に反応することによりCISが形成されるとの知見が得られた.これら結果を踏まえてCIS薄膜太陽電池を作製したところ,変換効率3.7%の太陽電池の作製に成功した. Zn-Ge-O膜に関しては,既存の有機金属化学気相堆積装置に有機金属Geを導入することにより作製した.その結果,Ge組成約8%のZn-Ge-Oが作製可能であること,同Ge組成のZn-Ge-Oにおいて電子親和力は4.0eVであることをイオン化ポテンシャル測定およびバンドギャップ評価により明らかにした.さらにZn-Ge-O膜をCu(In,Ga)Se2(CIGSe)薄膜太陽電池のバッファ層に適用したところ変換効率13.1%を得た.これら結果により,当初目標であった低電子親和力を有するn型透明導電膜の開発に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ワイドギャップ材料の開発としては金属プリカーサをS粉末によりアニールする硫化法を開発,CIS薄膜の作製に成功するとともに変換効率3.7%を得た.現状,アニール時における金属プリカーサとS粉末との距離が膜の均一性およびピンホールの形成に影響していることが明らかになっている.このためカーボンケースの形状を工夫することにより,アニール時のS分圧の制御を試みている.今後CISにGaを添加することによりバンドギャップ制御を行ない,裏面界面における再結合速度の低減を図る.またZn-Ge-Oに関しては,Ge添加により電子親和力が制御可能であること,得られた膜はCIGSe薄膜太陽電池のバッファ層として適用可能であることを見出している. 以上CISワイドギャップ材料の開発および低電子親和力n型Zn-Ge-O薄膜の開発,ともに太陽電池特性として特性が得られており,現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度としてワイドギャップ硫化物系カルコパイライト太陽電池の高効率化ならびにZn-Ge-Oの物性評価を集中的に行なう.具体的には以下の2つの課題に取り組む. 現状のCIS太陽電池はバンドギャップ制御などを行なっていない.CIGSe太陽電池の開発経験により,この系では裏面Mo電極における再結合速度が大きいため,この抑制が高効率化に必須であることが分かっている.今後はCISにGaを添加することによりバンドギャップ制御を行なう.CISにおいてはGa添加によりバンドギャップを広げることができる.また本年度の研究により,CISの硫化においては裏面側にIn2S3が偏析することが明らかになっている.このため金属プリカーサにGaを添加することにより裏面側に(InGa)2S3が偏析,裏面側のバンドギャップを広げることによりBSF(back surface field)構造が自然と形成され,太陽電池の高効率化が図られると期待される. 現状のZn-Ge-OはGe組成が8%程度である.カルコパイライト系太陽電池のバンドギャップにもよるが,n型半導体膜としてはより低電子親和力の材料系が求められている.そこで,Ge組成が高いZn-Ge-Oの作製を試みる.また,本年度のX線回折およびTEM分析により,Zn-Ge-OはGe組成を高めるとともに多結晶膜からナノ結晶の集合体へと結晶構造が変化することが明らかとなっている.このような構造変化および物性評価を推し進めZn-Ge-Oの諸特性を明らかにすることにより,その応用の可能性を拡げる研究を進める.
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