研究課題/領域番号 |
20H02639
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
今西 正幸 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (00795487)
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研究分担者 |
上殿 明良 筑波大学, 数理物質系, 教授 (20213374)
津坂 佳幸 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (20270473)
河村 貴宏 三重大学, 工学研究科, 助教 (80581511)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | OVPE / GaN / 低転位 |
研究実績の概要 |
OVPE法の近年の研究において多結晶要因である酸化ガリウムが低温で生成しやすいため、高温成長において多結晶を抑制可能であることを最近新たに見出した。加えて、内部応力が減少している知見も得られていることから格子定数の拡大抑制も期待できる。そこで、本研究ではOVPE法の問題点を克服し、低転位厚膜GaN結晶の作製を目指す。更には、三次元成長による転位減少及び格子定数拡張抑制メカニズムの解明にも取り組んでいる。 令和2年度はまず高温成長用OVPE成長装置開発に取り組み、当初の計画通り、急激な温度変化を抑制可能なホットゾーン形成用局所ヒーター開発に取り組んだ。100φの石英管内部に耐腐食性の高い材質のヒーターを導入し、石英管が軟化しない状態でのホットウォール構造を実現することに成功した。実際に従来炉とほぼ同等の品質の結晶が得られることを確認した。 陽電子の寿命測定によりOVPE法で作製したGaN結晶中の欠陥評価を行った結果、Ga欠陥及びN欠陥の複合体となったダイベイカンシーが存在することが分かった。放射光X線により、転位が収束したピット中心においてc軸方向の格子定数が増大していることが分かった。当該現象は酸素不純物だけでは説明がつかず、今後点欠陥と合わせてメカニズムを議論していく予定である。 以上の様に、当初の計画通り結晶評価が進んでいることに加え、新規炉が予想以上のスピードで立ち上がっており結晶成長にも既に成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1) 高温成長用OVPE成長装置開発:令和2年度は当初の計画通り、急激な温度変化を抑制可能なホットゾーン形成用局所ヒーター開発に取り組んだ。100φの石英管内部に耐腐食性の高い材質のヒーターを導入し、石英管が軟化しない状態でのホットウォール構造を実現することに成功した。実際に結晶成長を実施したところ、従来の局所加熱炉と同等の品質のGaN結晶を得ることに成功し、新規構造でも問題なく結晶成長可能であることが確認できた。従来構造においても、高温においては多結晶フリーかつ、200um/hの高速成長を実現し高温がよりOVPEの成長環境に適していることが分かった。 2) 低転位化メカニズムの解明:令和2年度は陽電子対消滅法により、OVPE法で作製したGaN結晶中の点欠陥構造の調査を行った。陽電子の寿命測定によりOVPE法で作製したGaN結晶中にはGa欠陥及びN欠陥の複合体となったダイベイカンシーが存在することが分かった。ピット下の転位についてもTEMを用いて評価を行った結果、転位の明瞭なバンドルは観察できない一方、一部のピット下部においては螺旋状の形状をした転位が存在することが分かった。低転位化の制御については、新たにメタンを用いてピットにおける転位収束を促進できることが分かった。 3) 高酸素不純物濃度状態における格子定数制御及びメカニズム解明:放射光X線により、転位が収束したピット中心においてc軸方向の格子定数が増大していることが分かった。当該現象は酸素不純物だけでは説明がつかず、今後点欠陥と合わせてメカニズムを議論していく予定である。第一原理計算の基づく状態密度計算の結果、Ga空孔に3原子以上の水素が加わることで、状態図に対する影響が無くなることが分かり、水素含有のOVPE法による着色原因と関係することが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
1) 高温成長用OVPE成長装置開発:高温成長用OVPE炉の立ち上がりが予想以上に早かったため、今後はホットウォール構造を用いて200um/h程度の高速成長を実現するとともに、従来炉に比べて多結晶を抑制し厚膜成長に取り組む。 2) 低転位化メカニズムの解明:ピット中心において転位が減少する現象はOVPE法特有である。今後はOVPE法で作製したGaN膜の特徴であるダイベイカンシー(令和2年度判明)と転位の相関について調査していく。今後はエピタキシャル成長層においてOVPE法における転位がどのように伝播するかについても調査していく。メタン添加技術をより発展させ、従来の無添加系より低転位密度のGaN結晶が得られることを実証する。 3) 高酸素不純物濃度状態における格子定数制御及びメカニズム解明:転位が収束したピット中心においてc軸方向の格子定数が増大している原因について、今後点欠陥と合わせてメカニズムを議論していく。第一原理計算についても、今後は高温成長において計算上点欠陥がどのように変化するかについても注目していく。
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