本研究では、フェムト秒レーザー光によって可能となる薄膜の微細加工技術開発を推進して、電子の透過率が十分に高くなる数10ナノメートル程度の極薄膜に微細加工を施し、薄膜を透過した電子と薄膜以外の部分を伝播した電子との干渉が可能となる、いわゆる位相回折素子の作製を目指している。昨年度までに、多光束レーザー干渉法によって複雑なパターンの加工を10ナノメートル程度の厚さの支持基板のない薄膜に施すことを実証した。本年度は、最も薄い材料であると考えられる厚さが0.3ナノメートルの単層グラフェンへの加工実験を実施し、空間分解能が100ナノメートル程度の加工を実現した。これまで試みた材料とは異なり、シングルパルスでの加工では微細加工が困難であったが、マルチパルス加工に変更することにって、高い精度での加工が可能となった。この過程において、単層グラフェンには数個の炭素原子に相当する大きさの欠陥が生じ、これがマルチパルス照射によって次第に大きくなることを、高分解能電子顕微鏡観察とラマン散乱スペクトル測定から明らかにした。このような支持基板のない極薄膜の加工は、他の方法では極めて難しいため、本方法がグラフェンを用いたデバイス開発に大きく寄与できる可能性があると期待される。さらに、極薄膜の加工技術開発を進め、同心円状のパターンにより電子線に対してレンズ作用を持つ素子の加工について検討を行った。これまでの成果によって、60ナノメートル程度の大きさの穿孔が可能であることから、多数の微小穴から構成される電子線回折素子の設計を行った。これによって、電子線の透過率を高く保って位相回折レンズとして機能する素子の実現に大きく前進することができた。
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