研究課題/領域番号 |
20H02648
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松田 信幸 東北大学, 工学研究科, 准教授 (10587695)
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研究分担者 |
金森 義明 東北大学, 工学研究科, 教授 (10333858)
山田 博仁 東北大学, 工学研究科, 教授 (60443991)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 量子情報 / シリコンフォトニクス / 水素アニール |
研究実績の概要 |
昨年度,薄さ数μmのシリコン薄膜によるビームスプリッタを周期的に並べた自由空間型光干渉回路を設計するとともに,シリコン深掘りエッチングにより,その試作に成功した.光ファイバアレイを用いて回路の複数の入力ポートにレーザー光を入力し,出力ビームパターンから回路の干渉動作を確認した. 本年度は,引き続き光回路の動作検証を進めた.原子間力顕微鏡を用い,Si薄膜の表面(側面)状態,特に表面荒れを評価した.その結果,試料の表面粗さは当初設定した目標値を下回る水準にあることが分かった. 次いで,膜厚のばらつきを様々な膜厚の試料について走査型電子顕微鏡を用いて調査した結果,膜厚の製造誤差は極めて小さいことが判明した.そのため本研究で目指すランダムなユニタリ変換回路の実現にあたり,製造ばらつきによるビームスプリッタのばらつきを利用するのではなく,高い制御性とともに各ビームスプリッタの反射率・透過率を設定できることが分かった.また,設計段階で独自提案した,干渉特性を向上させるための薄膜位置オフセット法の有効性を実験的に確認した. 次いで素子を光回路として動作させるため,入力側と出力側の両方に光ファイバアレイを設置し,光の入出力特性を調べた.結果,出力側ファイバアレイに結合する光強度を,全てのポートについて同時に最大化できないことが分かった.この原因について詳細に調べたところ,Si薄膜側面に存在する角度1度以下の微小な傾斜が,各Si薄膜での干渉特性やビーム出力方向を変化させていることがわかった.この傾斜の改善は今後の課題である.なお,この調査過程で,深掘エッチングで実現することが困難な不規則な薄膜パターンを作製することのできるポストプロセス法を新たに見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目標としていた表面状態評価,膜厚のばらつき評価,薄膜配置オフセットの効果の実証など,当初の予定をおおむね達成できたためである.また,エッチング深さが向上した素子の試作にも成功した.光ファイバアレイを用いた回路実装は,前述の薄膜側面のわずかな傾斜のために高い透過効率を実現できなかったが,今後の試作条件の見直しにより改善が期待される.一方その過程で,Si薄膜を基板上の格子点上の任意の位置に設置する手法を考案することができ,回路設計の柔軟性を大幅に向上することができた.
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今後の研究の推進方策 |
薄膜側面の微小傾斜を改善するための試作を行う.同時に,深堀深さの更なる向上を目指す.もし傾斜の改善により表面状態の劣化がみられる場合には,水素アニール処理による荒れの低減をめざす.これにより干渉特性が改善した場合には,回路が実装している電場振幅の変換行列の推定を行う.得られた変換行列について,回路のユニタリ性や,変換行列のランダム性を評価し,量子情報処理用光回路としての動作特性を検討する.また前述の新手法により,Si薄膜アレイではなく単体のビームスプリッタを搭載した素子や,簡単な光回路なども実装し,その干渉動作特性を確認する.これらを通じ,ユニタリ変換光干渉回路として機能する光回路の実現を目指す.
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