研究課題/領域番号 |
20H02651
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
芦原 聡 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10302621)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 超短パルスレーザー / 中赤外波長域 / 光周波数コム / 振動分光 |
研究実績の概要 |
中赤外域は『分子の指紋領域』と呼ばれるように分子振動の共鳴線の宝庫である。そのため,分子の構造解析・同定・定量分析において最も重要な波長域といえる。ところが、これまで赤外分光法に用いられてきた熱光源は、広いスペクトルをもつ反面、指向性・収束性に乏しいため、微量分子の高感度検出や顕微計測など、近年高まる期待には応えられないでいる。この現状を打破すべく、本研究では、中赤外域で広いスペクトル・精密な周波数確度・短い時間幅・優れた空間コヒーレンスを有する中赤外周波数コム光源を開発する。 初年度となる本年度は、本研究の基盤となるCr:ZnSモード同期レーザーの開発を行った。レーザー共振器を設計・製作し、半導体カーボンナノチューブを可飽和吸収体とする受動モード同期発振を実現した。さらに、特殊な分散設計を施した誘電体多層膜ミラーを導入することにより、中心波長2.3ミクロンで光電場振動5サイクル以下(時間幅にして36フェムト秒)のパルス発生に成功した。その際、出力パルスエネルギー4.2ナノジュールを得た。 本研究で用いたカーボンナノチューブは、これまでファイバーレーザーなどに用いられてきたものと比べて大きな直径(約2.2ナノメートル)を有するため、波長2.3ミクロン付近に励起子に起因する共鳴吸収を示す。本研究では、Zスキャン法およびポンプ・プローブ分光法により、このカーボンナノチューブの可飽和吸収特性(飽和フルエンスおよび回復時間)を計測し、中赤外域で動作する高速かつ高感度な可飽和吸収素子としての高いポテンシャルを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では、初年度の目標として、(i)Cr:ZnSレーザーのモード同期発振、(ii)分散補償誘電体多層膜ミラーを用いた光電場振動6サイクル以下(時間幅にして48フェムト秒以下)のパルス発生、そして(iii)カーボンナノチューブの可飽和吸収特性の計測を立てた。実際には、これら3つの目標を達成してその成果を国際学術誌Optics Expressに発表した。さらには、光電場振動5サイクル以下(時間幅にして36フェムト秒)という目標を上回る短パルス化に成功した。以上の理由により、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
開発したCr:ZnSモード同期レーザーの周波数コム化に着手する。すなわち、縦モード間隔とオフセット周波数を安定化する。具体的には、高速光検出器とスペクトルアナライザで縦モード間隔を計測するとともに、f-2f干渉と呼ばれる手法でオフセット周波数を計測し、それらの情報を励起パワーと共振器長にフィードバックする。これにより、各縦モードの周波数を安定化させる。 並行して、モード同期光源のさらなる高出力化を目指す。そのために、Crイオンの高濃度添加結晶を用いる。また、レーザー発振器の後段にレーザー増幅器を構築し、繰り返し周波数 40 MHzで平均出力3W以上、パルスエネルギー50nJ以上への高出力化を目指す。
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