研究課題/領域番号 |
20H02653
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
片山 郁文 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (80432532)
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研究分担者 |
桂川 眞幸 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (10251711)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アト秒 / 光電場 / トンネル電流 / 走査トンネル顕微鏡 / ナノスケール / プラズモニクス |
研究実績の概要 |
本研究では、連続波光源の光コムを合成することによって生成される超高繰り返し、位相制御アト秒パルスと走査型トンネル顕微鏡とを組み合わせ、アト秒時間領域の電子トンネル現象を誘起し制御することを目指し、研究を行ってきた。これまで、光電場を用いた電子トンネリング現象はテラヘルツ波や高強度のレーザーを用いて実証されてきているが、光領域での実証結果については議論のあるところである。これを可視光領域にスペクトルを持つ、位相制御アト秒レーザーで実現することにより、トンネル分光の超高速化を可能にすることを目指した。昨年度は、これまでに構築したアト秒STM装置を中心に光電場駆動のトンネル現象を明らかにする研究を推進した。特に、CWレーザーの合成波のみならず、パルスレーザーの合成波による電子トンネリング実験を試み、光電場によってもアト秒オーダーのトンネリングが誘起できることを実証することを目指した。このために、パルスレーザーと光第二高調波との合成波を照射し、誘起されるトンネル電流を観測する実験系を構築した。また、CWレーザー合成波の実験においては、熱の影響を取り除きつつ、光電場の影響を取り出すために、位相を高速で変調することによるトンネル電流の変化をロックインアンプを用いて検出する系を構築した。しかしながら、本研究により、位相制御によるトンネル電流の誘起効果を明確に観測することができなかった。特に熱によるトンネル電流の増加との切り分けが難しく、位相に依存した効果であることの実証が難しい状況であった。一方でシミュレーションを通して、トンネル電流がどの程度現れるかの計算を行い、ナノギャップの幅を小さくすれば、トンネル電流が観測可能となると考えられることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初に計画していた、光電場によるトンネル電流の計測が行えていないのが現状であり、当初の目標の達成が難しくなっているものと考えている。今後は使用するレーザーの変更や、試料の変更などを通して、光電場駆動の現象を見出せるように軌道を修正していく必要があるものと思われる。以上のことから、現状の進捗状況をやや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によって、連続波レーザーの合波によるアト秒パルス列を用いたトンネル電流の検出が難しいことがわかってきた。そこで、今後は、目標であった光電場によるアト秒トンネリングの実証を、アト秒電場に敏感な物理現象の探索に広げ、物質中の非線形応答などがアト秒の光電場位相に対して、どのような応答を示すか、という点に注目した検討を進める。そのために、パルスレーザーの合成波を準備し、それを照射することによって生じる非線形現象を調べる実験を行う。この理由は、パルスレーザーは連続波レーザーよりも高い電場強度を有しているために、電場に対する非線形応答を観測しやすいと考えられるためである。また、試料の側も工夫し、グラフェンや層状物質など、半導体や半金属など固体を試料とする。これは、真空のトンネリングに比べてこれらの物質は小さなバンドギャップを持っており、より弱い電場でも電場敏感な非線形性が観測可能であると考えられるからである。さらに、これらの物質の非線形応答を明らかにするために、バンド内の電子のダイナミクスに関するシミュレーションを行い、電場敏感な現象がどの程度の寄与を与えうるのかを見積もる研究を行う。これらを通して、アト秒電場による非線形現象の観測を目指す。
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