研究課題/領域番号 |
20H02654
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
川田 善正 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (70221900)
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研究分担者 |
居波 渉 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (30542815)
井上 康志 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (60294047)
石飛 秀和 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (20372633)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞刺激 / 高分解能顕微鏡 / 光学顕微鏡 / 電子顕微鏡 / 神経細胞 / 細胞機能制御 / ナノテクノロジー / バイオテクノロジー |
研究実績の概要 |
本研究では、生きた生物細胞に電子線を直接照射し、ナノメートルスケールの局所領域に電気的刺激を与え細胞反応の活性化制御および細胞に電子を直接供給し還元反応を人為的に誘発し細胞機能を制御する全く新しい細胞の刺激・制御法を開発することを目的とした。細胞は外部からのさまざまな刺激に応答し機能を発現・制御しているため、ナノスケールの局所的な刺激を与えることができれば、細胞の発生、代謝、信号伝達などの生命現象をイオンチャンネルレベルで解析することが可能となる。本研究では、薄膜で真空と大気圧を分離することにより、薄膜を通して集束電子線を生きた生物試料に直接照射する。集束電子線を用いているため、照射領域を生物試料上の数 nmから数10 nmに制限することができ、直接電気的な刺激を非接触で与えることが可能となると期待できる。電子線の電流量、加速電圧、集束スポットの大きさなどに対する基礎特性を体系化し、生細胞の機能解明に資する全く新しい細胞刺激・制御法を確立することを検討した。 今年度は、電子線照射のための基礎システムを試作するとともに、電子線の照射位置を高精度に再現性よく制御するための走査装置の高精度化、制御手法の開発を検討した。標準蛍光粒子を試料として、電子線を照射して褪色させることによって、電子線の照射位置を評価した。その結果、電子線の偏向のための電流を高精度に制御することにより、数100nmの分解能で電子線の照射位置を制御可能であることを確認した。またx-y軸方向に電子線を走査した場合の2軸間の干渉についても検討した。その結果から、2軸方向に電子線を偏向させるための電流を校正し、干渉を低減させるための制御手法について検討し、高い精度で電子線の照射位置を制御可能であることを示した。またより高精度に試料を駆動するために、ピエゾ装置をシステムに導入することに検討し、試料台を設計した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、集束電子線を用いているため、照射領域を生物試料上の数 nmから数10 nmに制限することができ、直接電気的な刺激を非接触で与えることが可能である。本手法において電子線の照射位置を高精度に制御するためには、電子線の走査精度および試料の駆動制御の高精度化が必要である。今年度の研究において、電子線の走査精度を明らかにし、走査方向によらない制御手法を検討するとともに、数ナノメートルの精度で試料を駆動するために電子線照射システムにピエゾステージを組み込むことを検討した。高精度に駆動可能なピエゾステージを組み込むための試料台の構成を新たに設計するとともに、実際に試作し、その可能性を明らかにした。新しい試料台の設計および高精度化は、研究の進展の中で課題解決のために生み出された新しい発想である。 また電子線を照射した場合の試料における発熱、 活性酸素などさまざまな化学種の発生についても、数値計算により検討を進めている。特に電子線照射による発熱は、細胞機能にダメージを与えることが懸念されており、大きな検討課題であると考えている。まだ検討の途中であるが、電子線照射による発熱は細胞にダメージを与えるほど大きいものではないのではないかと結果が出つつあり、今後より詳細な検討を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、HeLa細胞の局所領域に電子線を照射し、その反応過程を詳細に観察することにより、刺激観察システムの評価およびシステムの改良を行う。HeLa細胞の核、小胞、仮足などに局所的に電子線を照射し、その反応の伝達過程を可視化する。電子線を照射した位置からCa2+を貯蔵する小胞までの情報伝達メカニズム、小胞と電子線照射位置との距離による反応メカニズムの違い、反応時間の変化などを解析し、そのメカニズムを明らかにすることを目指す。また情報伝達のメカニズムを詳細に検討するため、高速度カメラを使用し、電子線刺激システムおよび超解像イメージングシステムを高機能化することを検討している。これまでの研究において、電子線の走査方向によらない制御手法を検討しており、またより高精度に電子線の照射位置を制御するためのピエゾステージを用いた試料台を試作している。試作した試料台を実際にシステムに組み込むことによって、その位置精度を評価するとともに、高精度化のための制御方法を検討する。 開発する電子線による超高分解能細胞機能イメージング・制御システムの構成を微生物の代謝反応制御に応用する。集束電子線によって微生物の代謝の変化を詳細に解析し、照射強度や照射部位によって代謝がどのように変化するのかについて生理学的および分子生物学的に解明する。対象サンプルとして大腸菌を用いると共に、生理学的特性が評価可能な、水質浄化に寄与する脱窒微生物や電気生産微生物を用いる。微生物への電子線照射による解析結果をもとに、微細物の代謝反応制御に基づく応用展開を目指す。微生物が生息している環境のほとんどは多種多様な微生物が生息している微生物集団(複合微生物系)である。そのため、この複合微生物系の機能制御に向け、複数種の微生物を用いた混合培養系や実廃水を用いて、システム全体の機能制御への応用を検討する。
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