研究課題/領域番号 |
20H02656
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
下間 靖彦 京都大学, 工学研究科, 准教授 (40378807)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 結晶 / 欠陥 / レーザー / 量子センサ / ダイヤモンド |
研究実績の概要 |
本年度は、(1)フェムト秒パルスの間隔時間とNV中心の形成量の相関を調べることで、NV中心形成の効率化と形成メカニズムの解明を目的とした。(2)さらに、パルス幅および偏光方向が異なるレーザービームを同軸とし、空間光変調器(SLM)の偏光応答性を利用して、一方のビームのみを空間変調させることによって、空間的にパルス幅が変調されたレーザービームを発生させることを試みた。具体的には、SLMと分散補償光学素子(透過型回折格子)を組み合わせて構築した光学系(パルスシェーパー)を用い、グラファイト化領域とNV中心形成領域を、時空間制御したレーザー光の照射のみで一括形成することを目標とした。(1)フェムト秒パルスの間隔時間とNV中心の形成量の相関:1~2500 psの間で光学遅延させたフェムト秒ダブルパルス列によるNV中心の形成量を評価したところ、シングルパルス列と比べてNV中心由来の発光強度は約1.3倍大きくなった。遅延時間が100 psまでは発光強度は徐々に増加し、250 psでピークとなり、それより遅延時間が長いと減少した。NV中心の形成と消滅(他の欠陥種に変化)によるものと考えられた。(2)パルスシェーパーを利用した時空間制御したレーザー光照射:SLMが作用する偏光方向のビームに対して、透過型回折格子による回折光が生じるが、高次の回折光によって、SLMが作用しない偏光方向のビームとの空間的な位置制御が困難となった。今後はSLMを2台使用した光学系について検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ダイヤモンド結晶内のNV中心を量子センサデバイスとして応用するためには、NV中心を電界発光させることが重要課題である。現在のところ、超短パルスレーザーをダイヤモンド内部に集光照射することによる、NV中心形成において、グラファイト化を起こすことなくNV中心を形成させるためには、熱処理による後工程が必要不可欠である。このため、本研究では、(1)ダイヤモンド結晶内部のNV中心形成において、フェムト秒レーザー光のパルス幅やパルスエネルギーがNV中心の形成過程にどのように関わっているのかを明らかにする、(2)ダイヤモンド結晶内部のグラファイト化において、フェムト秒レーザー光のパルス幅やパルスエネルギーがどのように関わっているのかを電子状態の観点から解明する、(3)1、2で得られた知見に基づき、量子センシングデバイス実現のため、ダイヤモンド結晶内にNV中心と導電構造の両方を空間的に位置制御して一括形成する手法を確立する、以上の3項目を目的としている。本年度は、特に、光学遅延させたフェムト秒ダブルパルス列によるNV中心の形成量を評価し、最適な遅延時間の存在を明らかにした。今後は、レーザー照射中の挙動を時間分解で観測することで、NV中心形成ダイナミックスの解明につなげる。一方で、空間的にパルス幅が異なるビームを形成するために構築したSLMと透過型回折格子を組み合わせたパルスシェーパーにおいて、SLMに作用するビームの高次回折光による影響がみられた。今後は、パルス幅が異なるビーム各々に対してSLMを用いる、パルス幅が異なるビームを逐次照射する等の工夫を試みる。
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今後の研究の推進方策 |
今回明らかとなったフェムト秒ダブルパルス列の遅延時間に対するNV中心形成量の変化に関して、NV中心の形成と他の欠陥種に変化することによる消滅が考えられた。今後は、①パルス繰返し周波数を変化させ、NV中心形成量の変化を観察することにより、熱蓄積の効果やメモリー効果の有無を確認する。さらに、レーザー照射中の挙動(発光スペクトル)を時間分解で観測することで、NV中心形成ダイナミックスの解明につなげる。また、パルスシェーパーを利用した空間的にパルス幅が異なるビーム整形に関しては、パルス幅が異なるビーム各々に対してSLMを用いる、パルス幅が異なるビームを逐次照射する等の工夫を試みる。
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