研究課題/領域番号 |
20H02660
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
沖野 友哉 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究センター, 研究員 (40431895)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 電荷マイグレーション / 水素マイグレーション / 波長可変 / 数サイクルパルス / 円偏光 |
研究実績の概要 |
2020年度は、(1)偏光-時間タグ付け法を用いたマルチフラグメント運動量画像法の開発、(2)可視・近赤外波長領域における直線偏光数サイクルパルスの発生、および(3)運動量投影型画像法の開発を行った。 (1) サブnsの蛍光寿命と狭い発光波長を有する蛍光体を利用したMCP/phosphor検出器を新たに導入することにより、マルチフラグメント運動量画像法における時間情報の再構築の精度を向上させ、全イオン種の運動量画像の同時観測を可能とした。MCP/phosphor検出器にレーザーパルス当たり複数のゲートパルスを印加することにより、親イオンおよび真空チェンバー内の残留気体由来の信号を除去することに成功した。さらに、10Gイーサーネットのインターフェースを有する偏光カメラを導入することにより、100 Hzの繰り返し周波数において運動量画像のカウンティング解析取得を可能とした。 (2) 炭化水素分子内で超高速で誘起される分子内の電荷移動過程および水素移動過程の実時間追跡を行うための光源として、可視から近赤外波長領域における直線偏光数サイクルパルスの発生を行った。基本波のポインティング安定性を改善するとともに、フィラメンテーション過程を用いた広帯域化およびチャープミラーを用いたパルス圧縮により5フェムト秒以下のパルス幅を有する直線偏光数サイクルパルスの発生を実現した。 (3) 従来のイオン運動量画像法ではフラグメントイオンの速度を投影する方式であるために質量電荷比が大きいフラグメントイオンで運動量の分解能が低い問題があった。新たに、フラグメントイオンの速度のかわりに運動量を投影する運動量投影型画像法の開発を行った。開発手法では、全イオン種についてほぼ同一の運動量分解能を実現可能であるとともに、検出器の中央部分に質量電荷比の大きな信号が集中する問題を回避することができることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題のカギとなる高速蛍光体付きMCP/phosphor検出器を導入するにあたっては、製造メーカーと連携を行いながら、試作品の性能評価を行い最終的な仕様の策定を行った。コロナ禍で実験室内での作業時間が限られていたため性能評価に時間がかかり、物品の調達が年度末となってしまったが、最終的には本研究課題を遂行する上で必要十分な性能を有するMCP/phosphor検出器を調達することができた。また、当初の研究計画には無かった運動量投影型画像法を考案し、必要なイオン光学系の数値シミュレーションに基づく設計を完了した。運動量投影型画像法は、マルチフラグメント運動量画像法において検出器の中央部分に複数のフラグメントイオンが集中した場合に質量の特定が困難となる問題を回避するための有効手段となりうる。
|
今後の研究の推進方策 |
直線偏光数サイクルパルスの発生は完了しているため、この光源および2020年度に開発を行ったマルチフラグメント運動量画像法を用いて、炭化水素分子(エタノール, アセトン, プロパナール)においてポンプ・プローブ計測を行い、分子内の超高速分子過程の観測を行う。並行して、円偏光および楕円偏光を有する数サイクルパルスの発生およびキャラクタリゼーションを行う。数サイクルパルスでは、搬送波包絡線位相によって観測されるダイナミクスが異ってくるため、搬送波包絡線位相のタグ付けを独自開発手法を用いて行う。また、運動量投影型画像法に必要なでイオン光学系を2020年度の設計を元に製作し、装置の性能評価を行う。
|