軽水炉で用いられるZr合金燃料被覆管は原子炉運転下にて冷却水と腐食反応を起こし、脆いZr水素化物が形成される。この水素化物は被覆管の健全性を劣化させることが知られているが、被覆管内に析出するδ相Zr水素化物、およびその前駆体であるγ相Zr水素化物の評価は十分になされていない。このため、δ相及びγ相水素化物の合成と特性評価を試みた。 δ相Zr水素化物の破壊靱性における結晶方位の影響についての知見を得るため、大粒径試料を合成し、その破面観察を行った。その結果、破面の大部分は{111}と{110}であり、fcc構造をもつδ相Zr水素化物は、これらの面でへき開しやすいことが明らかになった。{111}はZr原子、{110}はZr原子と水素原子をあわせた原子密度が高い面である。また、得られた試料について3点曲げ試験から破壊靭性値を測定したところ、平均値は0.83 MPa√mと過去の報告値と近い値が得られたが、測定値は大きくばらついた。破面観察より、値のばらつきにはこの強い結晶方位依存性が影響していることが示唆された。燃料被覆管は集合組織が調整されており、水素化物の方位も揃っていることから、水素脆化の評価のためには結晶方位依存性のより正確な把握が必要である。 体積膨張を伴う水素化物の析出においては、前駆体であるγ相水素化物の機械的特性の評価が必要になる。このため準安定相であるγ相水素化物について、急冷および低温での熱処理による粒の肥大化を試みた。急冷によりγ相の割合が増加し、およそ10μmほどの径をもつγ相が確認された。得られた試料について、局所押し込み試験による機械的特性の評価を試みている。
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