研究課題/領域番号 |
20H02668
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
稲垣 八穂広 九州大学, 工学研究院, 准教授 (80203199)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高レベルガラス固化体 / 超長期溶解挙動 / 基礎科学的評価 / 速度論的評価 / 地層処分 |
研究実績の概要 |
本研究では「高レベルガラス固化体」の超長期にわたる放射性核種閉込め性能について、より現実的で信頼性の高い評価を行うための「科学的基礎」の確立を目的とし、模擬ガラス固化体を用いてマイクロチャネル流水試験法により超長期に対応するシリカ溶存溶液条件での溶解変質試験を実施した。 まず初めに、国際標準6成分模擬ガラス固化体(ISG: International Simple Glass)をガラス試料とし、Si-29濃縮シリカ試薬を用いて作製したシリカ溶存溶液を反応溶液としてマイクロチャネル流水試験法を用いた予備試験を行い、ガラスからのSi溶解量を元々の反応溶液中のSiと区別して測定することでガラス溶解速度を定量できることを確認した。 次に環境条件パラメタとして反応溶液中の溶存Si濃度を選定し、溶液pH9、70℃においてガラス溶解速度の溶存Si濃度依存性を測定評価した。その結果、溶液pH9においては溶存Si濃度のわずかな増加によりガラス溶解速度が急激に低下することが分かった。ガラス溶解速度はこれまで非晶質シリカ(SiO2(am))の一次溶解則に従って変化すると考えられてきた。ここでSiO2(am)のpH9, 70℃における溶解度は120ppm程度であり、ガラス溶解速度がSiO2(am)の一次溶解則に従うとすれば、溶存Si濃度120ppmまでガラス溶解速度は直線的に低下するはずである。しかし、本結果ではより低い溶存Si濃度においてガラス溶解速度が急激に低下したことから、ガラス溶解速度はSiO2(am)の一次溶解則には従わないことが確認され、ガラス溶解速度はシリカの溶解/析出以外の反応機構に支配されるものと推測された。ガラス表面にはアルミノケイ酸塩の変質層が形成され、今回の短時間(~10日)の試験においてもガラス表面を覆うことでガラス溶解を抑制する保護膜として働いている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では「高レベルガラス固化体」の超長期にわたる放射性核種閉込め性能について、より現実的で信頼性の高い評価を行うための「科学的基礎」の確立を目的とし、模擬ガラス固化体を用いてマイクロチャネル流水試験法により超長期に対応するシリカ溶存溶液条件での溶解変質試験を実施する。 2020年度は、まず初めに、国際標準6成分模擬ガラス固化体(ISG: International Simple Glass)をガラス試料とし、Si-29濃縮シリカ試薬を用いて作製したシリカ溶存溶液を反応溶液としてマイクロチャネル流水試験法を用いた予備試験を行い、ガラスからのSi溶解量を元々の反応溶液中のSiと区別して測定することでガラス溶解速度を定量できることを確認した。 次に環境条件パラメタとして反応溶液中の溶存Si濃度を選定し、溶液pH9、70℃においてガラス溶解速度の溶存Si濃度依存性を測定評価した。その結果、溶液pH9においては溶存Si濃度のわずかな増加によりガラス溶解速度が急激に低下することが分かり、ガラス溶解速度はSiO2(am)の単純な一次溶解則には従わないことが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度以降は、ガラス溶解変質試験によるガラス溶解速度の溶存Si濃度依存性の測定評価を継続し、溶液pH9の条件に加えて、pH4、pH7におけるガラス溶解速度の溶存Si濃度依存性を測定評価する。 また、ガラス溶解変質試験の試験時間をこれまでの10日程度から30日以上に延長することで、分析可能なガラス表面変質層を成長させ、各種の固相分析手法(SEM/EDX, XRD, etc.)を用いてその化学組成や微視的構造を半定量的に評価する。 上記の溶解速度データと表面変質データの整合性から、ガラス溶解変質挙動の速度論的評価を試みる。
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