研究課題/領域番号 |
20H02669
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山路 哲史 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (00571704)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 超臨界圧軽水冷却炉 / スーパー高速炉 / 原子炉過酷事故解析 / In-Vessel Retention / MPS法 / MELCORコード / 炉心設計 / マルチフィジックス |
研究実績の概要 |
従来の原子炉の安全研究は究極の安全性を追求するのみだが、それでは絶対安全を求める社会とのギャップを永遠に埋められない可能性がある。他の工学システムと同様に、原子炉も万一の炉心損傷事故は不可避の前提で、社会が受容できる復旧のあり方を技術的に提言する必要がある。福島事故からも分かるように、事故時に燃料デブリが原子炉圧力容器(RPV)の外に漏れだすと、プラントの復旧は不可能であり、廃炉に長い年月を要する。そこで、本研究では、簡素でコンパクトな貫流直接サイクルを採用する超臨界圧軽水冷却スーパー高速炉の炉心設計、過酷事故解析、溶融物挙動解析等から、過酷事故時には全炉心がメルトダウンし、RPV底部に移行することを前提に、RPV内部に燃料デブリを留め、その再臨界を回避して安定冷却を達成する、新しい事故復旧性小型スーパー高速炉の概念を創出することを目的としている。2021年度は以下の成果が得られた。 (1)スーパー高速炉の小型炉心設計:核熱結合三次元炉心燃焼計算とモンテカルロ法に基づく臨界計算により、過酷事故時の炉容器内終息(IVR)とデブリ再臨界の回避の両立が可能な炉心設計概念を構築した(査読付学術論文誌に受理1件)。 (2)プラント過酷事故解析:設計基準を超えた冷却材喪失事故(BDBA-LOCA)解析を行い、プラント挙動を明らかにした(査読付国際会議投稿準備中) (3)デブリ移行溶融挙動解析:粒子法の一種であるMPS法の改良と解析により、デブリ分散型IVR概念の有効性を示すために、MPS法による解析の課題である計算コストの低減方法とクラストモデルの改良法を考案し、流路閉塞解析、デブリ再溶融過程挙動解析、溶融炉心広がり挙動解析に適用した(査読付学術論文誌に掲載3件)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的達成のために、「デブリ分散型In-Vessel Retention (IVR)」概念を考案した。過酷事故時には通常のIVRと同様に格納容器サプレッションプール水をRPV周囲のペデスタル領域に注水し、RPVを外側から冷却する。さらに、RPV内底部に耐熱材を敷設し、RPV外側からの燃料デブリの安定冷却が達成されるまでの間、再臨界に至るようなデブリの密集を防止する。このような事故復旧性小型スーパー高速炉の概念創出のために以下の成果が順調に得られている。 (1)スーパー高速炉の小型炉心設計:計画立案時に想定したように、運転サイクル長を伸ばすために炉心の余剰反応度を大きくすると、メルトダウン時の再臨界回避に必要な耐熱材を大きくしなくてはならず、その定量的な関係を明らかにできた。これにより、当初の目標通り、炉心性能(仕様)とIVR実施時のデブリ再臨界に要する冠水高さの関係を明らかにできた。 (2)プラント過酷事故解析:米国ISS社のプラント過渡・事故挙動解析コードASYSTにより得られた超臨界圧運転条件のプラント状態を初期条件とし、米国原子力規制委員会(NRC)の原子炉過酷事故解析コードMELCORを用いたスーパー高速炉の冷却材喪失事故(LOCA)解析を当初の計画通り、設計基準事故を超えた冷却材喪失事故(BDBA-LOCA)にまで拡張できた。今後は、そのような設計基準事故を超えた状態でIVRを実施した場合のプラント挙動の解明であることを明らかにした。 (3)デブリ移行溶融挙動解析:粒子法の一種であるMPS法を改良し、固体伝熱モード支配のフェーズでは解析タイムステップを流体の自然対流モード支配のフェーズに用いるそれの大きなものに変更する方法を考案し、デブリ再溶融過程の解析に成功した。また、クラストモデルの改良により、流路閉塞解析や溶融物広がり挙動解析に成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
研究目的達成のために、今後は以下を実施し、事故復旧性小型スーパー高速炉の概念創出のための炉心概念研究、プラント過酷事故時挙動解析、溶融物移行解析に取り組む。
(1)スーパー高速炉の小型炉心設計:これまでにIVR冠水高さと炉心設計の関係を明らかにし、IVR冠水高さを低減するSuper FR-IVR炉心設計概念を示した。今後は、炉心損傷進展過程における炉心・燃料デブリの反応度変化挙動の評価が課題と考えられる。Super FR-IVRはデブリがRPV下部プレナムに移行した後の再臨界を回避するが、炉心損傷進展過程の再臨界回避策の検討が新たな課題と考えられる。 (2)プラント過酷事故解析:スーパー高速炉の過酷事故解析を実施する。スーパー高速炉の設計基準を超えた冷却材喪失事故(BDBA-LOCA)時プラント挙動等を、過酷事故解析コードMELCOR-2.2を用いて明らかにし、格納容器保護の観点からどのような設計が望ましいのかを新たに検討することが課題と考えられる。 (3)デブリ移行溶融挙動解析:これまでに開発した改良MPS法を用いて、IVR成功時のみならず、IVR失敗に伴いRPV下部ヘッドバウンダリが破損した場合のデブリ挙動の解明とそのような事故対策の検討が新たな課題と考えられる。
|