研究課題/領域番号 |
20H02670
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
前田 茂貴 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 高速炉・新型炉研究開発部門 大洗研究所 高速炉サイクル研究開発センター 高速実験炉部, 主任研究員 (60421773)
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研究分担者 |
野上 光博 東北大学, 工学研究科, 助手 (10847304)
渡辺 賢一 九州大学, 工学研究院, 教授 (30324461)
人見 啓太朗 東北大学, 工学研究科, 准教授 (60382660)
伊藤 主税 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 高速炉・新型炉研究開発部門 大洗研究所 高速炉サイクル研究開発センター 燃料材料開発部, 課長 (90421768)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | TlBr半導体検出器 / ガンマ線 / スペクトロメータ / エネルギー分解能 |
研究実績の概要 |
原子力プラントでのアプリケーションとして高速実験炉「常陽」の燃料破損検出設備を対象に、適用性試験のために整備した体系を用いて、予備試験として試作検出器のエネルギー分解能について温度特性を評価した。温度上昇に伴ってエネルギー分解能が悪化する相関関係が得られ、燃料破損検出設備への適用には20℃程度の冷却の必要性を確認した。一方、冷却によるエネルギー分解能の改善については、計測制御系の電気的雑音が課題として明らかになった。また、検出器深さ方向の情報を含んだ測定データを処理するソフトウェア的な手法によるエネルギー分解能のデータも取得した。 検出器素子については、製造条件と結晶素子性能の相関データを得るために帯溶融条件を変えた結晶を育成し、走査電子顕微鏡(SEM)による後方散乱電子回折(EBSD)による結晶方位解析による結晶性評価と検出器化した際の素子性能の指標として電子の移動度・寿命積(μτ値)に着目して相関関係を取得し、製造条件への要求を明らかにした。さらに、同一ウェハー内での結晶性とμτ値の分布データを取得し、結晶性と結晶素子性能の相関に関する基礎データを取得した。 高検出効率化のための検出器素子の大型化については、今年度は10mm角の従来(5mm角)と比較して大型な結晶を昨年度、今年度の知見をもとに試作し、検出器としての動作データとしてエネルギー分解能とμτ値を測定し、検出器として動作することを確認した。 電極設計は、高エネルギー分解能の実現のためにpixel型検出器が有利であることを確認し、ポラリゼーション問題の回避のためにTl電極を採用して印加電圧を正負切り替える方法が必要であることを確認した。 以上の結果からTlBr検出器の最適設計・製造技術について検討し、次年度の検出器の製造条件、仕様等を決めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
原子力プラントでのアプリケーションとして高速実験炉「常陽」の燃料破損検出設備を対象に、適用性試験のために整備した体系を用いて、最終的な実証試験の前準備として予備試験が完了しており、燃料破損検出設備への適用に必要な基礎データの取得を完了している。また、改善に向けた課題やエネルギー分解能向上に係る知見を得ており、検出器開発や実証試験に向けた準備は順調に進んでいる。 検出器素子については、製造条件を変えた結晶と結晶素子性能の相関データについて、昨年度の成果である走査電子顕微鏡(SEM)による後方散乱電子回折(EBSD)を活用してデータを蓄積し始めており、結晶性と結晶素子性能の相関に関する基礎データを取得しつつある。 高検出効率化のための検出器素子の大型化については、従来(5mm角)と比較して大型な結晶の作成に成功しており、検出器としての特性データを取得済みである。更なる大型化に向けての知見を蓄積している。 電極設計は、高エネルギー分解能及び長期安定性の観点でpixel型検出器が有利であることを抽出しており、順調に進んでいる。 以上の結果からTlBr検出器の最適設計・製造技術について検討は進んでおり、最終年度に向けて研究が順調に推移していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
アクセシビリティが十分とは言えない原子力プラント内でも容易に利用可能なポータブルかつ高エネルギー分解能のガンマ線スペクトロメータとして、高速実験炉「常陽」の燃料破損検出設備に用いているHP-Ge検出器の置き換えを念頭に、本研究で得られた製造条件をもとに製作する試作検出器による実証試験を実施し、核分裂片(Fission Product:FP)ガスの核種弁別に必要なエネルギー分解能の達成、ポラリゼーションを防いだ長期安定性を確認する。 また、昨年度に引き続き、製造条件と結晶素子性能の相関データを製造条件を変えた結晶及び検出器化した素子を用いて取得し、最終的な検出器性能だけではなく、結晶純化、結晶育成、ダイシング・研磨、電極作成・ワイヤリング等の製造プロセス毎に最適化し、TlBr検出器の効率的な製造手法を示す。 一方、高検出効率化のための検出器素子の大型化については、昨年度に引き続き今年度は20mm角の大型な結晶を昨年度、今年度の知見をもとに試作し、検出器としての動作データとしてエネルギー分解能と電子の移動度・寿命積(μτ値)を測定し、検出器としての性能を確認する。検出効率としては、HP-Ge検出器の製品ラインナップに並ぶレベルとして、いわゆる相対効率(3インチNaIシンチレータに対する比率)で最低でも10%以上を実現できる可能性を検討する。 以上の結果をまとめ、ポータブルかつ高エネルギー分解能のガンマ線スペクトロメータを、TlBr半導体検出器を用いて実現できる可能性を示す。
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