研究課題/領域番号 |
20H02678
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安川 和孝 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (00757742)
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研究分担者 |
大田 隼一郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (70793579)
宮崎 隆 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(火山・地球内部研究センター), 主任研究員 (80371722)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | レアアース泥 / 地球システム / 同位体分析 / 多変量解析 / 物質循環 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,新生代初期の温室地球における高品位レアアース泥の成因を解明することである.そのために,温室地球で生じた海底堆積物の広域地球化学データセットの構築,多変量統計解析と同位体分析による環境・物質循環変動の痕跡の抽出,および上記項目の成果を制約条件とした海洋元素マスバランス計算によるレアアース泥生成過程の定量的検討を行う.2021年度は,研究代表者の安川が2020年1月から2月にかけて参加したIODP Expedition 378で採取された海底掘削コア試料 (IODP Site U1553) の全岩化学分析,炭素・酸素同位体分析,CaCO3含有量分析を行った.その結果,約5600万年前から5200万年前の古第三紀暁新世末期および始新世前期に発生した短期的温暖化イベント層準を複数見出すことができた.特に古第三紀の温暖化の中で最も規模が大きい暁新世/始新世温暖化極大 (PETM) において,堆積物中の複数の元素濃度が変化していることが分かった.また,前年度に引き続き北太平洋ODP Site 1215およびインド洋ODP Site 738・752の堆積物試料についてオスミウム同位体分析を実施した.その結果,上記の古第三紀温暖化イベント時に大陸岩石の風化が促進されたことが示唆された.さらに,インド洋ODP Site 738のバリウム同位体分析を実施した.その結果,短期的温暖化に伴う生物生産性の変動の痕跡が示唆された.また,海水-堆積物間の相互作用を明示的に考慮した海洋レアアース質量収支計算を行うためのマルチボックスモデルを新たに構築し,先行研究に基づく観測結果を概ね整合的に再現できることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は当初予定通り,南太平洋のIODP Site U1553コア試料の分析に着手し,北太平洋・インド洋と合わせて地球上の広域をカバーするデータセットの構築を開始した.Site U1553試料についての全岩化学分析,炭素・酸素同位体分析,CaCO3含有量分析は概ね順調に進捗し,当初の想定通り古第三紀の短期的温暖化イベントを連続性良く複数捉えることに成功した.また,北太平洋ODP Site 1215やインド洋ODP Site 738・752についてオスミウムおよびバリウム同位体分析の分析も進めた.新型コロナウイルス感染拡大に伴い高知コアセンターおよび海洋研究開発機構 (JAMSTEC) 横須賀本部での分析作業にやや遅れが生じたが,取得できたデータはいずれも良好であった.また,海洋の元素収支を定量的に考察するための新たな数値モデルについても,そのプロトタイプを独自に構築し,現在の海洋における観測事実を概ね良く再現できることが確認できた.以上のことから,当該年度の研究は概ね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,当初予定通り南太平洋IODP Site U1553,北太平洋ODP Site 1215,インド洋ODP Site 738・752について,主成分・微量元素組成,オスミウム同位体比およびバリウム同位体比のデータ取得を進める.なお,新型コロナウイルス感染拡大の影響によりJAMSTECでの同位体分析を行える期間が短縮されたため,オスミウムと本質的に類似した情報にあたるストロンチウム同位体分析の優先度を下げ,生物生産性の変動を追うことができ新しい独立な評価軸となることが期待されるバリウム同位体比の分析作業を優先的に実施していくこととする.並行して,2021年度に新規構築した海洋元素収支モデルの改良を進め,海洋-堆積物間の相互作用を基にレアアース泥の生成条件を検討できるよう,計算コードをアップデートする.
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