研究課題/領域番号 |
20H02680
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
田中 久仁彦 長岡技術科学大学, 工学研究科, 教授 (30334692)
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研究分担者 |
荒木 秀明 長岡工業高等専門学校, 物質工学科, 教授 (40342480)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 薄膜太陽電池 / 発光スペクトル / 環境調和半導体 |
研究実績の概要 |
Cu2Sn1-xGexS3(CTGS)薄膜太陽電池は有毒・希少元素を含まず製造工程が簡単なため注目されている。しかし、現状の発電効率は理論効率より遥かに低い。本研究では効率に大きく影響を与える欠陥を発光分析により検討し、高効率化のために必要な、あるいは除去すべき欠陥を明らかとすることを目標としている。2020年度はCTGSの基本となる半導体Cu2SnS3(CTS)の深い欠陥の発光を、CTGSについては浅い欠陥の発光の検討を行った。
CTGSについては単層太陽電池で高効率が得られるバンドギャップ1.4 eV程度となる組成比(Ge/(Sn+Ge)=0.8)を持つCu-rich、Cu-poorの発光の検討を行った。その結果、 0.9~1.2 eVで広い発光が初めて観測されたが、Cu-richではこの発光が非常に弱くCu欠陥に由来することが分かった。また、この発光の活性化エネルギーが約20 meVであることから、この発光の起源となる一方の欠陥準位は数百meVと非常に深く効率低下の要因となるものの、一方は20 meVであり室温に相当するエネルギーより小さいことから、効率低下の要因とはならないことが分かった。CTSについてはNa添加CTS薄膜に関して高品質単斜晶ならびに、一部、立方晶含む低品質薄膜の発光スペクトルの観測を行った。その結果、高品質CTS薄膜のみ低温で励起子発光ならびに高温でバンド端発光が観測され光学的にも高品質であることが分かった。また、双方から効率低下要因となる深い幅の広い発光が0.6 eV~0.9 eVにかけて観測された。深い発光の起源の分析は今後行っていく。なお、この深い発光はこれまで報告のない新しい発光である。
以上の様に効率に影響を与えるいくつかの深い発光を観測することができた。これらの起源を明らかとすれば太陽電池の効率低下を抑え高効率化につなげることが可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では最高効率が報告されているGe/(Sn+Ge)=0.3の試料を主として分析する予定であった。しかし、Ge/(Sn+Ge)=0.3はバンドギャップが1.1 eV程度と狭く低エネルギー側の発光が重要になるのに対し、低エネルギー側の観測が可能となるCCDの納入が遅くなることが予測できたため、単層太陽電池で高効率が期待できるバンドギャップ1.4 eV程度となるGe/(Sn+Ge)=0.8程度のCTGSのCu-rich、Cu-poorについて発光の検討を行った。CTGSは原料をアンプルに真空封入して固相成長により作製した。CTGSはCTSと比較してIV族元素が成長時に抜けやすいためCu-poor試料作製が非常に難しく、Cu-poor、Cu-richかつGe/(Sn+Ge)=0.8程度のCTGSを用意するのに時間を要した。なお、現状では試料作製時のアンプルの温度勾配を調整することにより再現性は低いもののCu-poorの試料作製ができるようになってきている。Ge/(Sn+Ge)=0.8程度のCTGSについてはCu-rich、 Cu-poorの発光スペクトルの観測・分析を行っており、Cu-poorで効率低下の要因となりうる深い欠陥に由来する発光を観測している。
CTSに関しては低エネルギー側CCDの納入が遅れたため、観測系立ち上げ・調整を主目的としてNa添加高品質CTS薄膜、Na添加低品質CTS薄膜の発光スペクトルの観測を行った。発光観測系の調整は終了し、CTSに関してこれまで観測されていなかった低エネルギー側の発光を観測できた。
低エネルギー側CCDの納入遅れ並びに、CTGS組成比調整試料の作製に時間がかかったことから、Na添加有無による発光スペクトルの違いを観測できておらず、この点から研究がやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
CTGSについては低エネルギー観測CCD観測系を構築できたので,本年度はGe/(Sn+Ge)=0.8に加え高効率が報告されているGe/(Sn+Ge)=0.3についても検討を行っていく.組成制御法もある程度確立したため,Cu/(Sn+Ge)をさらに細かく調整し,また,Na添加試料も作製しCu/(Sn+Ge)の違い,Na添加の有無で生じる欠陥について検討を行っていく.
CTSについては薄膜と多結晶バルクからの発光の比較検討を行う.欠陥の寄与を明らかにするため,多結晶バルクは実際に太陽電池に使われる薄膜よりも多く欠陥を導入し分析を行う.薄膜に関しては太陽電池用いられている高品質なものを分担者より供給を受ける.薄膜と多結晶バルクからの発光の比較を行うことで,効率低下・改善に寄与する薄膜中の欠陥を明らかにする.薄膜の発光スペクトルに関してはある程度測定が進んでおり,今後さらに詳細を分析していく.
本研究では,最終的には発光観測で得られた知見を基に太陽電池の高効率化を図る.今年度は太陽電池光吸収層薄膜作製用に抵抗加熱多元蒸着装置を導入するため,成膜の予備実験を行い,次年度以降の太陽電池作製に備える.また,分担者が作製する薄膜は高効率化のためNaが添加されているため,新たに導入する抵抗加熱多元蒸着装置によりNaを添加していないCTS,CTGS薄膜も作製し,薄膜においてNa添加の有無の違いを発光スペクトル観測により明らかにしていく.
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