研究課題/領域番号 |
20H02681
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
飯田 和昌 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (90749384)
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研究分担者 |
畑野 敬史 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (00590069)
生田 博志 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (30231129)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 鉄系超伝導薄膜 / トポタクティック反応 / 水素ドーピング / 異方性 / 臨界電流特性 / 粒界 |
研究実績の概要 |
トポタクティック反応による母相NdFeAsO薄膜のOサイトへのH部分置換は,熱処理条件の最適化により安定してNdFeAs(O,H)薄膜が作製できるようになった.そこで,これら薄膜を用いて電気輸送特性を評価し,以下の知見を得た.1) 熱処理により薄膜表面粗さが大幅に改善された.具体的には,平均2乗粗さが3 nmから1 nm以下を示した.2) 17 MA/cm2 (4 K, 自己磁場中)にも到達する高い臨界電流密度Jcを記録した.超伝導体の自己磁場中におけるJcは,膜厚が磁場侵入長よりも薄い場合,磁場侵入長の逆数に比例すると報告されている.従って,Jcの向上はH部分置換によるキャリア密度の増大により,磁場侵入長が短くなったためだと考えられる.3) 高い超伝導転移温度Tcを維持したまま上部臨界磁場Hc2の異方性が小さくなることがわかった.具体的には,ab面内方向のHc2はあまり変化がないが,c軸方向のHc2が向上し,その結果,両者の比である異方性が小さくなった.これは銅酸化物超伝導体と同様,キャリア密度の増大により超伝導を担う層間の結合が強くなったためだと考えられる.異方性の低下により,応用上,重要な不可逆磁場が向上した. 次に最適化されたトポタクティック反応を用いて,[001]-tilt MgOバイクリスタル基板上に成膜されたNdFeAsO薄膜へのHドープを行なった.作製された薄膜のX線回折測定から,薄膜には多くの不純物が含まれていることがわかった.さらにこれら薄膜は超伝導性を示さなかった.従って,トポタクティック反応の熱処理条件は基板の種類により異なることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述のように通常の基板に成膜した母相NdFeAsO薄膜のOサイトへのH部分置換は,熱処理条件の最適化により安定してNdFeAs(O,H)薄膜が作製できるようになった.その結果,NdFeAs(O,H)の超伝導特性の評価は予定通り進めることができた.また得られた成果についても査読付論文に2本掲載された.しかし,予定されていたNdFeAs(O,H)バイクリスタル薄膜の作製は,試みたもの成功していない.これは通常の基板の上に成長した薄膜で最適化したトポタクティック反応の熱処理条件条件が,そのままバイクリスタル基板上に成長した薄膜に適用できないためである.
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今後の研究の推進方策 |
NdFeAs(O,H)バイクリスタル薄膜の作製に向け,まずは1) 不純物相の特定,2) 組織観察により不純物の生成機構の解明を行う.また並行して,バイクリスタル基板上に成膜されたNdFeAsOを用いてトポタクティック反応の熱処理条件の最適化を行う.まずは,通常の基板と同じ大きさに揃えて,条件の最適化を行う.NdFeAs(O,H)バイクリスタル薄膜が得られたら,粒界特性(粒界をまたぐ超伝導特性)を調べていく.
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