研究実績の概要 |
本研究では,鉄系超伝導体の中で最も超伝導転移温度Tcが高いLnFeAsO(Ln: ランタノイド元素)系を研究対象物質として選定し,酸素サイトの一部を水素で置き換えたNdFeAs(O,H)のエピタキシャル薄膜の作製,これら薄膜の基礎物性の理解,そして粒界特性の評価を行った.2020年度にNdFeAs(O,H)薄膜の作製条件の最適化が終わり,2021年度はこの薄膜を用いた物性評価を中心に進めた.2022年度は水素置換量の異なる薄膜を作製し,超伝導臨界電流密度Jcや上部臨界磁場Hc2の水素量依存性を系統的に調べた.その結果,非常に大きなJc(10 MA/cm^2)を示す置換領域が存在し,ある置換量を境に急激に低下した.この結果のように超伝導転移温度Tcと同様に,自己磁場Jcのプラトー領域が存在するが,Jc低下の方がより顕著であった.またJcの外部磁場依存性も同様の振る舞いを示した.すなわち,自己磁場Jcのプラトー領域では,外部磁場に対するJcの低下は緩やかであり,その領域を外れるとJcは外部磁場の増加に対して急激に低下した.Hc2の異方性は水素置換量に対してわずかに減少する傾向を示した.次に自己磁場Jcが大きい(11 MA/cm^2)NdFeAs(O,H)を[001]-tilt MgOバイクリスタル基板の上に作製した.接合角は6度である.粒界をまたいだJcは,約6 MA/cm^2を記録した.この値はこれまで報告されている鉄系超伝導体の中では最高の値である.一方で,粒内Jcとの比は約50%程度であり,他の鉄系超伝導体よりも同じ接合角に対するJcの減衰が大きいことがわかった.この減衰がLnFeAsO固有の特性なのか,あるいはフッ素置換の試料のように粒界部にダメージが加わり粒界Jcが低下したのか,今後,組織観察などを行い調べていく必要がある.
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