研究課題/領域番号 |
20H02693
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
水谷 泰久 大阪大学, 理学研究科, 教授 (60270469)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アロステリー / ラマン分光法 / タンパク質ダイナミクス |
研究実績の概要 |
タンパク質は人工の分子では成し得ない高度な機能を有する。したがって、タンパク質を理解することは生命現象の理解のみならず、高度な機能性分子の創成に重要な知見を与える。タンパク質の構造-機能相関を理解するうえで重要な点は、複数のタンパク質が共通した立体構造を持ちつつ、それぞれが多様な機能を示すことである。このことは共通構造が機能の基本構造となっていることを示すとともに、その基盤の上での調節によって機能の多様性が生まれていることを強く示唆する。本研究では、タンパク質化学反応の際に起きる機能単位間の連動的構造変化を観測し、共通の立体構造から機能の多様性が生まれる機構を明らかにする。 ロドプシンタンパク質の多くは、共通の発色団および共通の立体構造を持ちつつ、プロトン、ナトリウムイオン、塩化物イオンなど、タンパク質ごとに多様なイオンを選択的に輸送する。光駆動プロトン輸送タンパク質について、発色団近傍に位置するトリプトファン残基をフェニルアラニン残基に置換すると、発色団の光異性化反応は同一であるにもかかわらず、タンパク質に誘起される構造変化が12%にまで低下すること、またプロトン輸送活性が9%にまで低下することを発見した。ここから、発色団とポリペプチド鎖との原子間接触がヘリックスの変位を誘起し、プロトン移動を駆動するという機構を提案した。この機構は、他の光駆動イオン輸送タンパク質に対して共通に成り立つ可能性がある。また、新規ロドプシンタンパク質について、光サイクル中に生じる反応中間体の発色団構造の特徴を明らかにした。新規プロトン輸送タンパク質についても系統的な観測を行い、発色団が捻れたポリエン鎖を持つこと、近傍のアミノ酸残基と強い水素結合を形成していることを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
機能発現のトリガーとなる変化からそのキーステップに至る過程において、複数の機能部位に起きる構造変化を共鳴ラマン分光法を用いて多面的に観測する実験手法を確立した。また、イオン輸送活性の観測手法を確立することもできたため、構造変化と機能活性との相関を定量的に調べられるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
酸素運搬タンパク質の多くは、共通のサブユニット構造を持ちつつ、多様な会合様式によって協同性を示す。これらのうち一部のタンパク質について、酸素分子の結合・解離に伴ってαヘリックスの向きが大きく変化することが示唆されている。αヘリックスの向きの変化は、サブユニットの構造を変化させ、さらにサブユニット接合部位の構造を変化させる。接合部位の構造変化は協同的に各サブユニットの酸素親和性を変化させるため、協同的な酸素親和性発現において重要な役割を果たすと考えられる。そこで、ヘリックスに含まれるトリプトファン残基の共鳴ラマンバンドおよびアミドバンドの時間分解観測を行い、酸素分子の脱離後、αヘリックスに逐次的にどのような動きが起きるかを調べる。会合様式が異なる酸素運搬タンパク質の間で構造変化の比較を行い、ヘリックスとサブユニット接合部位とのカップリングにどのような違いがあるのかを明らかにする。ここから、多様な会合様式で協同性を生み出す構造変化を同定する。
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