研究課題
分子デバイスにおいて、分子が求められる物性は導電性や吸光/発光特性であり、分子の最高占有軌道(HOMO)準位および最低非占有軌道(LUMO)準位の正確な情報が欠かせない。分子超薄膜内を電荷が移動するとき、HOMO/LUMOにはそれぞれ正孔/電子が流れるため、電極基板から受ける静電的相互作用が異なり、両軌道間のエネルギー準位差が変化する。これはギャップリノーマリゼーションと呼ばれ議論されてきたが、十分な理解には至っていない。そこで本研究課題では、表面吸着分子におけるHOMO/LUMO準位を基板からの距離の関数として実測すると共に、同一の分子超薄膜に対し導電性や光学特性を計測して、ギャップリノーマリゼーションが及ぼす分子物性への影響を総合的に解明することを目指す。2020年度は、計画に沿って主に低損傷の紫外(UV)光源を用いたUPS計測の確立に注力した。従来の計測では、UV光源として放電管を用いたHe Iα線源が用いられてきたため、試料のダメージを増大させている可能性があった。そこで本研究課題では、低い光子エネルギーの水素原子(H) Lymanα線源を用いたUPS測定装置の新規構築を進めた。新型コロナ禍の影響で、予定よりも進捗に遅れが生じているが、Lymanα光源の入手と光学レンズ等の購入を済ませ、現在は既存装置への導入を進めている。くわえて、グラファイト基板に吸着したペリレン分子の実験結果を基に、発光現象と分子配列、および電子状態の影響についてまとめ、論文を発表した。この系では、表面に直接吸着した分子でも強い発光が得られており、その原因について興味が持たれていた。結論として特定の分子配列で得られる電子状態が重要であることを示すことができた。
3: やや遅れている
本研究課題では、表面吸着分子のギャップリノーマリゼーションと分子物性の関係を解明するために、良く規定された試料に対して電子準位測定と物性測定の双方を行い、総合的な理解につなげる計画である。具体的な研究の進め方としては、重要な2つの電子準位:HOMO準位、LUMO準位、および2つの物性:表面-分子膜導電特性、吸着分子吸光特性について、それぞれに適した4種の測定手法:紫外光電子分光(UPS)、二光子光電子(2PPE)分光、および走査トンネル顕微分光(STM/STS)、差分反射分光(DRS)を拡充し、精密計測を可能にすることで総合的な理解を目指している。初年度である2020年度は、計画に沿って低損傷の紫外(UV)光源を用いたUPS計測の確立に注力した。従来の計測では、UV光源としてHe Iα線源(21.22 eV, 波長58 nm)が用いられ、放電発光部から試料までが筒抜けになっており、UV光の他に電子やイオン、ラジカルなどが表面へ照射され、試料のダメージを増大させている可能性があった。そこで、低い光子エネルギーの水素原子(H) Lymanα線源(10.20 eV, 波長122 nm)を用いたUPS測定装置の構築を進めた。この波長であれば、LiFやMgF2のレンズやフランジ窓を使用することができ、光源と真空槽を完全に分離することが可能である。新型コロナ禍の影響で、予定よりも進捗に遅れが生じたが、新たな光源と光学レンズ等の購入を済ませ、現在は装置への導入を進めている。くわえて、グラファイト基板に吸着したペリレン分子の実験結果を基に、発光現象と分子配列、および電子状態の影響についてまとめ、論文発表した。この系では、表面に直接吸着した分子でも強い発光が得られており、その原因について興味が持たれていた。結論として特定の分子配列で得られる電子状態が重要であることを示すことができた。
次年度である2021年度も、当初の計画に沿って、測定装置の拡充に重点を置いて研究を進める。まず、初年度に新型コロナ禍で遅延してしまったLymanα光源によるUPS計測の確立を急ぐ。はじめは、既存の光電子分光装置にLymanα光源を付加的に取り付け、従来のHe Iα線源との違いを確認する。特に、より低損傷な実験が可能であることを定量的に評価することを最優先に進める。これが確認できれば、計画に従って、Lymanα光源に合わせた光電子分光装置全体の見直しを進める。現状の真空槽の構造上、最良の測定条件を実現するには、光電子分光チャンバーの抜本的な刷新が必要と思われる。この改良によって、効率よく低損傷で質の高いUPS測定が出来るように装置の最適化を行い、電子準位の精密計測を可能にする計画である。また、表面-分子間の導電性評価のために既存の走査トンネル分光(STS)装置の高性能化も並行して進める。初年度にも進めてはいたが、実測においてシグナル/ノイズ比の更なる向上が必要であることが判明した。この対応として、原因と考えられるユニットをよりスペックの高いユニットに置換える段取りを付けたので、これによる精度改善の確認を急ぐ。くわえて、分子膜の光学吸収を評価するために、差分反射分光(DRS)の立ち上げに向けた初期テストを計画している。この測定手法の導入では、最終的に真空槽に置かれた試料の発光計測にも応用することが可能であり、既存の装置より検出感度の向上が見込まれる。先の研究の更なる発展も念頭に、DRS装置の立ち上げを進める。これらの測定手法の整備によって、表面との距離を規定した試料の電子準位と物性特性の両方の高精度測定を可能にし、ギャップリノーマリゼーションと分子物性の相互理解を目指す。
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セラミックス
巻: 56 ページ: 88-91
The Journal of Physical Chemistry C
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