研究課題/領域番号 |
20H02697
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
稲見 栄一 高知工科大学, システム工学群, 准教授 (40420418)
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研究分担者 |
阿部 真之 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (00362666)
勝部 大樹 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (00831083)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 走査プローブ顕微鏡 / 原子・分子物理 / 化学結合 / 表面・界面物性 / 機能性ナノ材料 |
研究実績の概要 |
本研究では、原子間力顕微鏡/走査トンネル顕微鏡(AFM/STM)の複合装置と超短電圧パルス制御技術を融合して、2原子間の化学結合に伴う分子軌道の形成過程をエネルギースケールで追跡可能な超短電圧パルストンネル分光法(Ultra-Short Voltage Pulse Scanning Tunneling Spectroscopy; USVP-STS)を開発する。 令和2年度は、研究実施計画に沿って、USVP-STS装置のコントローラー開発を行った。具体的には、計測・制御システム開発環境であるLabVIEW(本年度経費で導入)を通じて、任意波形発生器(本年度経費で導入)から矩形波アナログ信号を制御的に出力させるためのシステム構築を行った。以下、詳細な実施内容と成果についてまとめる。 (1)AFMカンチレバーの振動信号を模したアナログ正弦波(周波数150kHz)をトリガー信号に用いて、矩形波電圧(時間幅は数ナノ秒)を、振幅、およびトリガー点からの遅延時間を制御しながら安定出力させることに成功した。USVP-STS測定で重要なパラメータとなる矩形波の振幅は、任意波形発生器の分解能(14bit)で精密に制御することができる。 (2)トリガー点から矩形波を出力させるまでの遅延時間をアナログ正弦波周期(トリガー周期)内で掃引させることに成功した。(1)および本機能を兼ね備えたコントローラは、AFM/STM複合装置へ組み込む準備が整っており、USVP-STS観察の原理検証を行える段階にある。 (3)本年度の計画の1つであった、矩形波の振幅掃引に関しては、一部システムの不具合が原因となり、完全な実現には至らなかった。現在、(1),(2)で構築したコントローラを装置への組み込む行程と並行して、(3)で生じたシステム不具合の原因究明、および解決策の模索を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度の研究計画である、USVP-STSコントローラー開発では以下3つの制御が求められる。 (1)外部トリガーを用いて矩形波信号を一定の振幅・遅延時間で連続出力させる。 (2)(1)で遅延時間のみを外部トリガーの1周期内で掃引する。 (3)(1)で振幅のみを±2V内で掃引する。 (1),(2)に関しては、当初の予定通り完成しており、AFM/STM装置への組み込みが行える段階にある。一方、(3)に関しては、システムの不具合が原因で完成しておらず、現在も原因究明と解決策の模索を行っている。以上、当初の研究計画と実際の進捗状況から、区分を「(3)やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度で構築したコントローラー開発で生じた不具合に関しては、引き続き原因の究明を進めると共に解決策の検討を行う。一方で、構築済みのコントローラーに関しては、当初の計画通りAFM/STM複合装置への組み込みを行い、USVP-STS法の原理実証を行う。具体的には、以下の研究計画を進める。 (1)Si(111)-(7×7)表面を用いて、USVP-STSの原理実証・測定条件の最適化を行う 。具体的には、Si原子が針先に固定された導電性カンチレバーで、Si-Si単結合(共有結合)で生じる結合・反結合性軌道の準位が検出される条件を模索する。 (2)本装置の汎用性検証を目的に、トンネル電流のトンネルギャップ幅依存性の測定を試みる。(1)と同様のSi(111)-(7×7)表面を対象に、パルス電圧法を利用して、トンネル電流の探針-試料間距離依存性を測定して、トンネル障壁高さを評価可能かを検証する。 (3)精密なUSVP-STS測定を行う上で、室温における熱揺らぎは、トンネル分光におけるエネルギー分解能を低下させる。そこで、室温環境AFM/STM複合装置と併せて、別途、極低温AFM/STM複合装置に本研究で開発したコントローラを組み込み、(2),(3)の測定を試みる。
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