研究課題
二十面体貴金属13量体クラスターの1原子の共有により得られる連結体は、超原子と見なせる個々の13量体クラスターの電子構造を維持しつつ、連結に基づく新た な機能の創出が期待されることから、合成例が複数報告されている。しかし、銀を基盤元素に用いた超原子分子については報告例が極めて少なく、その報告は二 十面体構造の中心原子を白金に置き換えたクラスターのみに限られている。本年度は、2つのAg12Pd(Pd = パラジウム)が連結した超原子分子の合成に取り組ん だ。生成物の単結晶X線構造解析より、そうしたそうした連結体は合成し得る超原子分子であること、また、このクラスターの幾何構造は、既報 のAg12Pt連結体である[Ag23Pt2(PPh3)10Cl7]0と類似した幾何構造であることが明らかとなった。Pd置換位置の妥当性を検討するために、Pd置換位置の違いによる 熱力学的安定性をDFT計算により調査したところ、2つのPd原子がそれぞれの二十面体コアの中心に位置する構造が最も安定であることが明らかとなった。得られ たAg12Pd連結体と既報のAg12Pt連結体の溶媒に対する安定性を調査したところ、Ag12Pt連結体はより安定であることが明らかとなった。さらに、今回の実験では 銀のみからなる[Ag25(PPh3)10Cl7]2+は合成されなかった。これらのことから、Agを基盤元素とする超原子分子の溶媒に対する安定性は[Ag23Pt2(PPh3)10Cl7]0 > [Ag23Pd2(PPh3)10Cl7]0 > [Ag25(PPh3)10Cl7]2+の順になると考えられる。この順は個々の二十面体構造の安定性の順と一致することから、個々の超原子骨格の強 さが超原子分子形成に影響を与えると結論づけた。これらの知見は、今後の超原子分子創製における明確な設計指針に繋がると期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
本課題研究により既に、Au4Pt2が金属-金属結合を介して結合した連結構造体を複数創製することに成功している。本年度はさらに、超原子と見なせる金属クラ スターが1点共有した連結構造体の創製に成功した。こうした連結構造体においては、申請書に記載した構造体よりも、さらに顕著な連結の影響を誘起でいると期 待される。これらのことから、当初の計画以上に進展していると判断した。
物性の基本となる電子構造の解明に取り組む。常温下ではこれらクラスターに振動励起が生じているため、常温測定では多くの遷移が重なった複雑かつブロー ドなピークを有するスペクトルのみが得られる。そこで、低温にて測定を行うことで、スペクトルのブロード化を抑え、電子構造の詳細の観測を実現する。こう した低温での光学吸収スペクトルの測定システムは、本研究予算にて構築する。構成元素の電荷状態については、広域X線吸収微細構造解析により明らかにする。 この測定はSPring-8にて実施し、測定に際しては、長年の共同研究者である、首都大学東京・山添誠司教授(研究協力者)の協力を受ける。また、予備的な実験 より、[Au4Pt2(SR)8]0はフォトルミネッセンスを呈すること、またその量子収率は温度の減少とともに増加することが明らかになっている。そこで、発光に関し ては、各温度での量子収率と蛍光寿命を中心に解明に取り組む。これらの測定を、全ての[Au4Pt2(SR)8]0に対して行うことで、金属-金属結合を介した集積が物 性・機能に対して与える影響を明らかにする。また、1D連結構造体を形成する[Au4Pt2(SR)8]0については、操作プローブ顕微鏡により、電気伝導度の測定も行 う。 また、これらの実験後には、他の安定金属クラスターについても、クラスター内配位子相互作用のコントロールにより、金属-金属結合を介した1D連結構造体を 形成させ、その物性・機能を解明する。さらに、得られた知見を活用することで、1D連結構造体だけでなく、2D連結構造体、さらには3D連結構造体も創製し、そ の物性・機能の解明を行う。これら全ての実験結果をもとに、目的の機能を有する集積構造創製に向けた明確な設計指針を確立する。
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