研究課題/領域番号 |
20H02699
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
加藤 隆二 日本大学, 工学部, 教授 (60204509)
|
研究分担者 |
四方 潤一 日本大学, 工学部, 准教授 (50302237)
関 和彦 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 上級主任研究員 (60344115)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 過渡吸収分光 / 酸化チタン / 非接触光伝導計測 |
研究実績の概要 |
本年度は①から③について検討を行った。 ①ダブルパルス励起過渡吸収分光光学系の構築:本年度、YAGレーザーを購入し、既有のレーザーと組み合わせ、時間的同期をとる回路を構築し、二つのレーザーパルスを任意の遅延時間で試料に照射できるダブルパルス励起光学系を構築した。これをこれまで用いていたマイクロ波過渡吸収分光計に組み込み、ダブルパルス過渡吸収計測によるトラップ電荷の脱トラップ信号の検出を試みた。弱いながらも信号が検出された。今後、励起条件の最適化、信号起源の解明を行う。 ②過渡吸収分光計の高感度化:これまでの過渡吸収分光計では吸光度として10^-5が検出限界であった。電荷再結合の電荷密度依存性の解明にはさらなく感度向上が必要であるため、計測系を見直し、特に高速転送オシロスコープを利用したところ、10^-6以下の吸光度計測が可能となった。酸化チタンで得られた再結合ダイナミクスはこれまでのモデルでは説明できず、理論モデルの構築を進める。 ③過渡吸収分光計の長波長化:多波長プローブ過渡吸収を実現するため、これまで行っていなかった中赤外領域の光学系を構築した。中赤外線に透過率が高いフッ化カルシウムレンズを用い、MCT赤外検出器で光検出した。酸化チタンの過渡吸収信号を検出することはできたが、計測感度が低く、改良を進めていく。 これらの装置開発を続け、酸化チタンについて様々な方向から、その電荷再結合ダイナミクスについて検討を進めていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新しい過渡吸収計測のための光学系、計測系の構築をすすめた。ダブルパルス光学系、高感度化については当初の計画通り、装置構築を行うことができた。ダブルパルス励起による電荷脱トラップ信号の検出に取りくんだが、信号が予想よりもかなり小さく、脱トラップ反応の効率が予想よりもかなり低いことが推察される。今後、感度の向上に取り組む予定である。高感度化については当初計画よりも高い感度を達成できた。これにより電荷対再結合を観測できた可能性があり、今後、計測条件の最適化とその結果を基にした理論モデルの構築を行う。 観測波長の長波長化についても検討を進めた。特に中赤外(3-10マイクロメートル)領域の光学系構築に取り組んだ。酸化チタンにおいて過渡吸収信号を得るところまで開発は進んでいるが、酸化チタンの電荷再結合を評価する計測感度には達しておらず、今後改良を続けていく。特に光学系の最適化によって十分な強度の光を用いる必要性があると考えている。またTHzに関しては検出器として用いることができるショットキー型ダイオードの性能評価を行い、過渡吸収分光用に使用できる感触を得た。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、過渡吸収計測のさらなる長波長化としてTHz領域の装置開発を進める。THz過渡吸収計測は既有のフェムト秒レーザーをベースとした発生系と、ショットキー型ダイオードを用いた検出系を構築して行う予定である。しかしながら最近になってTHz領域の新しい発生光源が市販されるようになってきたため、この利用の可能性も検討する。初年度に行った中赤外領域での計測でも計測感度が十分ではなかったため、THz領域ではさらに問題になると予想される。そこで検出感度の向上のため、縦軸12bit分解能を有するオシロスコープを用いた新しい信号検出・解析システムを構築することで対応する。 可視、近赤外領域では十分な感度を有する装置を構築できたので、系統的な計測を進めていく。とくに再結合ダイナミクスが様々な環境で変化することを信頼性の高い計測で明らかにして再結合ダイナミクスの理論モデルの構築を目指す。温度効果はこれまでも検討されてきたが、加えて湿度の変化により酸化チタン表面の吸着水分子数が変化するため、それが与える影響を調べる予定である。また、酸化チタン内のプロトン濃度が酸化チタン内の電荷の動きに影響を与えると推察しており、pHを変えた溶媒環境下など、系統的に評価を行う。 また、過渡吸収計測中に試料からの発光が観測された。過渡吸収と相補的な情報を与えると考えられるため、発光についても併せて評価を行う。
|