研究課題
本年度は下記の①から④について検討を行った。①可視・近赤外波長領域の過渡吸収分光計の長高感度化:本年度に購入した高性能オシロスコープを活用し、高速データ転送システムを作成した。また、レーザー励起の制御のために電気シャッターを制御する回路自作し、システムに組み込んだ。繰り返し周波数1 kHzのYAGレーザー3倍波を用いて酸化チタン薄膜試料を励起し、ほとんどすべてのデータをコンピュータに転送し解析する計測システムを構築できた。これによりこれまでの感度限界10^-6吸光度を大きく上回る10^-8台の吸光度を計測できる感度を実現した。②酸化チタンの電荷再結合における酸素の効果:上述の過渡吸収分光計を用いて酸化チタンの過渡吸収信号の解析から電荷再結合速度に関する情報を収集した。その計測時に偶然、酸素の存在が電荷再結合を大きく抑制していることを見出した。吸着水分子や二酸化炭素についても検討したが、それらは影響を与えていないことがわかり、酸素の吸着が非常に大きな影響を与えることを確信できた。実際には励起光強度依存性にも影響を与えていることを見出した。この効果は表面近傍のポテンシャル変化によるものと推察し、現象論的モデルに加え、反応速度論に立脚した精密なモデルの構築を進めている。③テラヘルツ領域のマイクロ秒過渡吸収分光計の構築:今年度購入したテラヘルツ発生器と検出器を用いて、過渡吸収光学系の構築に着手した。凹面鏡を用いた反射型光学系の構築をすすめている。定常信号は検出できており、最適化のための調整技術を習得中である。④過渡吸収の測定中に酸化チタンからの発光を意外と簡単に計測できることに気が付いた。発光は電荷再結合によって生じるものであるため、発光の計測は過渡吸収に対して相補的な情報を与えることが期待できる。今年度、発光スペクトルと発光収率について、信頼性の高い結果を得ることができた。
2: おおむね順調に進展している
これまで酸化チタン中に生成した電荷の再結合反応の速度について、多くの研究が報告されているものの、研究者ごとに、その値が大きくばらついているのが現状である。この理由を明らかにすることが本課題の大きな目標の一つであり、今年度に吸着酸素の影響を見出したことは、その解明に大きく近づいた成果であると考えている。また、この計測の実現のためには超高感度過渡吸収分光計の作成が順調に進んでいるためであることを強調しておきたい。次のステップとして、材料の作り方の違いにも注目し、種々の商用材料についても系統的に検討を進められる準備が整ってきている。また、電荷再結合の計測には様々な波長における過渡吸収jの計測が必須であると考えている。本年度、これまで報告例のない、テラヘルツ領域でのマイクロ秒時間分解過渡吸収装置の基本的な光学系が完成したので、今後、多くの情報が得られることが期待できる。昨年度の後半に酸化チタンの発光が簡単に計測できることを見出し、過渡吸収に相補的な情報として発光についても検討することで、より多面的な理解が進むものと考えている。
来年度に向けて下記の①から③について進めていく計画である。①吸着酸素の影響についての詳細な検討:本年度見出した吸着酸素の影響をより深く検討する。具体的にはこれまで用いてきた酸化チタンナノ微粒子膜以外の商用酸化チタン光触媒についての系統的なデータ収集を行う。また光触媒反応、例えばアルコール分子と正孔の反応における酸素の存在効果について調べ、酸素の影響が光触媒反応に与える効果についても検討する。さらに理論的な側面からも詳細なモデルの構築を進める。②マイクロ波、テラヘルツ波過渡吸収のデータ収集:マイクロ秒領域のテラヘルツ過渡吸収分光は世界的に見てもほとんど行われていない。今年度基本光学系を構築できたのでそれを活用した過渡吸収分光計を開発し、系統的な過渡吸収計測を行う。この結果をこれまで蓄積してきたマイクロ波や可視・近赤外領域の過渡吸収の結果を比較することで、電荷再結合反応の詳細が明らかにできると考えている。③発光との相関の検討:電荷再結合時に微弱ながら発光が生じる。この発光現象の発光スペクトル、発光量子収率、そして発光時間挙動は過渡吸収の結果に対して相補的な情報を与えることが期待される。励起条件等を揃えた系統的な計測を行っていく予定である。
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Adv. Energy Mater.
巻: 12 ページ: 2102776
10.1002/aenm.202102776