研究課題/領域番号 |
20H02700
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
井村 考平 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80342632)
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研究分担者 |
今枝 佳祐 北海道大学, 理学研究院, 助教 (30754717)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ナノ物質 / 光場操作 / 光励起状態 / エネルギー伝達 |
研究実績の概要 |
本研究では,光場操作によるナノ物質の光励起状態制御の基盤技術を構築することを目標としている。本年度は,様々な形状のナノ物質に励起される空間モードを詳細に理解すること,また光場操作によりナノ物質に特定の固有モードを選択励起することを計画した。金ナノプレートの近接場透過測定および電磁気学解析から,プラズモンモードのプレート形状依存性を研究した。その結果,三角形プレートから六角形プレートに形状変化する過程で,多くのプラズモンモードで固有エネルギーの順番が維持される一方,一部のプラズモンモードでその順番が入れ替わることが明らかとなった。また,特定形状のプレートにおいて,固有エネルギーの縮退が起こることが明らかとなった。これらの知見は,固有モードの選択励起を実現する上で非常に重要である。 励起光の空間分布と偏光ベクトルを制御することで,ナノ物質の固有モードの励起確率を制御することができる。これを達成するために,空間位相変調器を用いて,励起パルス光の偏光ベクトルの空間分布を制御してナノ物質に光照射し非線形光学測定を行った。ナノ物質からの非線形発光を検出することで光場操作により,励起モードの選択励起が達成されたことを示唆する光学像が得られた一方,装置の調整と安定性に改善すべき点があることが明らかとなった。また,今年度は,あらたに光源を導入し,ナノ物質の多様な共鳴に対応するための準備を進めた。さらに,非線形光学特性制御を達成するために,ナノ物質に誘起される急峻な電場勾配が非線形分極に及ぼす効果を,金ナノプレートにおける非線形発光計測から評価した。非線形発光のプレートサイズ依存性から,電場勾配に起因する分極が光応答に寄与することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,励起光場の空間と偏光ベクトルの操作により,物質の光励起状態とエネルギー伝達の制御を実現し,物理化学に新学理と研究分野を開拓することを最終目標とする。これを達成するために,当該年度と次年度において,光場操作と制御技術を確立し,新しい光学選択則に基づく光励起状態制御を達成すること,また,その制御の原理を,物質間のエネルギー伝達の制御に展開することを計画した。光励起状態制御を達成する上で,鍵となるのは,ナノ物質に励起される固有モードの空間特性とその共鳴エネルギーに対する理解の深化である。これについては,近接場光学顕微鏡を用いた金ナノプレートの透過イメージングと電磁気学解析から,固有モードの空間構造と固有エネルギーのプレート形状依存性が明らかになるなど,その理解が格段に深まった。また,これにより,偏光制御した光に対する固有モードの光学選択則も明らかとなり,電磁気学解析でもその有効性を確認した。さらに,光場制御による光励起状態制御を実現する研究提案の妥当性を裏付ける基礎的データが得られた。エネルギー伝達の制御に向けては,金ナノプレートの非線形発光計測から,局在励起した分極がプレート内部の空間に非局在化し広がること,これがエネルギー伝達を実現する上で重要であることを明らかにした。これらの研究成果は,今後の研究展開の基盤となるものである。以上のとおり,当初の研究計画程度の目標を達成していることから,おおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,光場操作によりナノ物質に新しい状態が励起されることを示す研究提案の基盤となる原理検証を達成している。今後は,光場操作・制御技術を高度化,また安定化し,ナノ物質の光励起状態の高度かつ高精度な制御を達成する。これにより,光場制御に基づく新しい光機能を実現する。また,その制御技術を物質間のエネルギー伝達制御に展開する。ナノ物質としては,これまでに固有モードに関して知見の蓄積がある金属ナノ物質を中心に,シリコンなどの高屈折率半導体を研究対象とする。物質間のエネルギー伝達の制御性を検討するため,さらに,光制御技術の適用範囲を拡張するため,金属ナノ物質に励起されるプラズモンと半導体に励起されるエキシトンの強結合系の研究にも着手する。プラズモンとエキシトンの強結合系では,強結合により新たな電子状態が生成する。平面波励起では光学禁制であるプラズモンを光場操作により励起することで,プラズモンとエキシトンの相互作用を格段に増強することができると期待される。本年度は,その基礎としてプラズモンとエキシトンの相互作用を近接場透過測定および発光測定により明らかにする。前者は,生成した電子状態の吸収特性を,後者は励起状態からの発光特性の解明を可能とする。これらの研究により,物質間のエネルギー伝達と空間選択的伝達法の基礎を構築する。以上の研究目標達成に向けて,今年度も当初の研究計画を基軸として研究を推進する。
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