研究課題/領域番号 |
20H02701
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
八木 清 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (30401128)
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研究分担者 |
花岡 健二郎 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (70451854)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 量子化学 / QM/MM計算 / イメージング / タンパク質・リガンド相互作用 / 蛍光プローブ分子 |
研究実績の概要 |
蛍光イメージングにおいて、標的タンパク質を蛍光ラベル化する技術は、その細胞内動態を直接観察することを可能にする、生命科学研究に必要不可欠な手法である。最近、タグタンパク質-蛍光プローブペアが新たなラベル化手法として注目を集めている。しかし、その光機能制御にはまだ課題があり、タグタンパク質-蛍光プローブの相互作用と光化学過程に対する基礎的な理解が求められている。本研究では、量子化学(QM)計算と分子力場(MM)を組み合わせたQM/MM法を用いて、タンパク質環境にある蛍光プローブの構造とダイナミクスを計算する。タンパク質と蛍光プローブはどのような結合状態を形成するのか?電子励起により、どのような構造変化が誘起されるのか?蛍光発光はどのような分子機構で起こるのか?計算化学と有機合成化学で共同し、これらの疑問に答える。得られた知見に基づき、タンパク質と特異的に結合し、発光する新規蛍光プローブを設計することを目的としている。これまでに下記の成果を得た。 1.フェニルローダミンを骨格に持つ新しい蛍光プローブを作成した。フェニルローダミンは無蛍光性であるが、タンパク質との結合が消光経路を阻害するように分子設計することで、タンパク質と結合したときに発光する蛍光プローブを作成できた。フェニルローダミンの消光機構を量子化学計算により解明した。QM/MM法に基づく分子動力学(MD)計算により、タンパク質との立体障害により、蛍光プローブの消光経路が阻害され、蛍光発光が起こることを示した。 2.最近開発されたQM計算プログラムQSimulateと、我々が開発しているMD計算プログラムGENESISを組み合わせた。新しいプログラムは、並列計算により、QM/MM計算の性能が大幅に向上した。蛍光プローブ分子の電子励起状態におけるQM/MM-MD計算が可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.フェニルローダミンを骨格に持つ新規蛍光プローブの開発 ローダミンにフェニル基を導入したフェニルローダミンは無蛍光性であり、quencherとして利用されてきたが、その消光機構は明らかになっていなかった。我々は、フェニルローダミンの消光経路を阻害することで、タンパク質と結合したときだけに発光する蛍光プローブが作成できないかと考えた。 まず、有機合成実験と量子化学計算で共同し、消光機構を調査した。時間依存密度汎関数(TDDFT)計算から、S1状態ではローダミンの持つキサンテンとフェニル基がなす2面角が回転した構造が安定で、この過程で、S1状態の性質が変化する、いわゆるtwisted intramolecular charge transfer (TICT)機構により消光すること分かった。これを実験的に検証するため、TICTを阻害する分子を有機合成することで、フェニルローダミン類でも蛍光発光することを示した。さらに、ハロアルカンデハロゲナーゼ酵素を改変したHaloTagに対するリガンドであるHaloTagリガンドとフェニルローダミンを融合した分子に対し、QM/MM法に基づく分子動力学(MD)計算により、蛍光プローブの光励起後の構造変化を求めた。その結果、タンパク質と結合することで、TICTが立体障害により阻害され、蛍光発光することを示した。 2.GENESIS/QSimulateインターフェースの開発 本課題では、蛍光プローブ分子の電子励起状態における挙動を知ることが重要であり、電子励起状態に対する計算法であるTD-DFT計算のパフォーマンスが研究全体に大きな影響を及ぼす。最近、並列計算機により高速に実行できるQM計算プログラムQSimulateが開発された。我々が開発しているMD計算プログラムGENESISとQSimulateを組み合わせ、高速なQM/MM計算を可能にした。
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今後の研究の推進方策 |
開発したGENESIS/QSimulateによるQM/MM計算を用いて、励起状態のおける構造変化に必要な自由エネルギー変化を計算する。また、リガンドの種類を変え、分子モデル作成・ドッキング・QM/MM計算、という一連のワークフローを完成させる。また、有機合成化学からのアプローチとして、これまでに開発しているHaloTag・蛍光プローブ(HaloTag蛋白質との結合によって蛍光上昇を示すものと示さないものの両方)について、詳細な光化学的特性を精査し、計算の最適化に役立てる。これらの知見を蓄積し、最適な分子構造の蛍光プローブを計算により予測し、有機化学的に合成し、その機能を評価する。
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