研究実績の概要 |
蛍光イメージングは、標的タンパク質を蛍光ラベル化することで、その細胞内動態の直接観察を可能にする、生命科学研究に必要不可欠な手法である。最近、タグタンパク質-蛍光プローブが新たなラベル化手法として注目を集めている。しかし、その光機能制御にはまだ課題があり、タグタンパク質-蛍光プローブの相互作用と光化学過程に対する基礎的な理解が求められている。本研究では、量子化学(QM)計算と分子力場(MM)を組み合わせたQM/MM法を用いて、タンパク質環境にある蛍光プローブの構造とダイナミクスを計算する。タンパク質と蛍光プローブはどのような結合状態を形成するのか?電子励起により、どのような構造変化が誘起されるのか?蛍光発光はどのような分子機構で起こるのか?計算化学と有機合成化学で共同し、これらの疑問に答える。得られた知見に基づき、タンパク質と特異的に結合し、発光する新規蛍光プローブを設計することを目的としている。 これまでに、フェニルローダミンの消光機構を明らかにし、ハロアルカンデハロゲナーゼ酵素を改変したHalo-Tagタンパク質と結合したときに発光する蛍光プローブを作成できた。昨年度は、この研究成果をまとめた論文がJACS誌に受理され、掲載された(JACS 2022, 144, 19778-19790.)。 また、Halo-Tagタンパク質以外にも、様々なタンパク質を対象として計算を実行するためのワークフローを開発している。その一環として、並列計算によりQM/MM計算の性能が大幅に向上し、蛍光プローブの電子励起状態ダイナミクス計算を高速に実行できるようになった。この成果を論文にまとめ、本年度中に投稿する予定である。
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