研究課題/領域番号 |
20H02703
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
加藤 景子 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (40455267)
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研究分担者 |
小栗 克弥 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子科学イノベーション研究部, 主幹研究員 (10374068)
増子 拓紀 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子科学イノベーション研究部, 特別研究員 (60649664)
国橋 要司 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子科学イノベーション研究部, 研究主任 (40728193)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アト秒 / 時間領域 / 過渡反射率 / オペランド |
研究実績の概要 |
令和2年度研究実施計画に基づき、【課題1:高感度アト秒時間分解反射率計測法の確立】に関して、以下の2つの項目を重点的に実施した。 課題1-1:二重光学ゲート法によるアト秒パルス光発生 実験では時間幅7フェムト秒の近赤外高強度超短パルスレーザー光を光源として用いた。レーザー光を真空チャンバ中に導入したアルゴンガスに集光し、高次高調波発生過程を通じて20 eV付近の極端紫外領域へ波長変換した。アト秒パルス光発生のために二重光学ゲート法を用いたところ同波長領域で連続的なスペクトルを得ることができた。得られたスペクトルに対してフーリエ限界を仮定してパルスの時間幅を見積もったところ200 アト秒であり、アト秒パルス光発生を確認できた。 課題1-2:高感度アト秒時間分解反射率計測装置の構築 時間分解反射率計測装置を構築し、単結晶ビスマス薄膜の計測を行った。実験手順は以下のとおりである。レーザー光源から得られる光をビームスプリッタで2つにわけた。一方はアト秒プローブ光として用いるために課題1-1で構築したアト秒パルス光発生装置へ導入した。他方はポンプ光として用いるために、遅延回路に導入し、プローブ光に対して遅延時間を設けた。なお、ロックイン検出を行うためにポンプ光はチョッパーを用いて強度変調をかけた。ポンプ光・プローブ光ともに凹面鏡にて試料上へ集光し、試料から反射されたプローブ光を電子増倍管で検出した。得られた電気信号は、ボックスカー積分によって積分した後にポンプ光の周波数でロックイン検出した。実験ではビスマスの価電子帯から励起状態への電子遷移に由来するキャリア応答を観測できた。同信号の取得にかかった時間は4分であり、従来のアト秒時間分解分光計測の一般的な計測時間(数時間)と比較すると計測時間の大幅な短縮に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は【課題1:高感度アト秒時間分解反射率計測法の確立】に関して、(1)二重光学ゲート法によるアト秒パルス光発生ならびに(2)単結晶ビスマス薄膜のキャリア応答の観測に成功した。特に(2)に関しては、ボックスカー積分およびロックイン検出を併用した計測法がアト秒パルス光のような低強度の光でも適用可能であることがわかった。さらに同装置を用いれば数分で信号取得できることから、レーザー強度依存性や試料のドープ濃度・面方位依存性、印可電圧依存性など精密な物性計測への展開も期待される。 なお、2020年上半期はコロナの感染対策のために出社制限がかかり、実験時間を十分確保することができなかった。そのため、当初計画にあげていたアト秒ストリーク法に依るパルス幅計測実験は見合わせることとした。一方、在宅勤務期間中に、2021年度に計画していた波長分解計測用のマルチチャンネル検出器システムの製作を前倒しして着手した。具体的には、プログラム演算処理によるロックイン検出システムを構築した。本システムによれば、安価かつ小型で熱ドリフトを受けにくい計測装置を製作することができる。しかしながら、従来のアナログ電子回路によるロックイン検出のほうが、今回製作したシステムによりS/Nがよいことがわかった。これはA/D変換の分解能に起因しており、本申請の予算内では解決が困難である。本結果に基づき、本申請では従来通りアナログ電子回路によるロックイン検出システムを採用することにした。 コロナ感染対策や現所属機関への異動に伴い、多少の計画の変更はあったものの、次年度の計画の前倒しなどで対応したため、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2021年1月に名古屋大学へ異動となり、異動先で施設を一から立ち上げなおすこととなった。これを受けて、2021年度の研究課題は以下の2つとする。 第一の課題は、アト秒時間分解反射率装置の再立ち上げである。前職場で製作した装置は時間分解能の安定度という点で問題があった。これはポンプ光とプローブ光が異なる光学素子を通過しており真空ポンプに由来する振動の影響を受けやすかったためと考える。そこで、再立ち上げにあたっては2つの光が極力、同じ光学素子を通過して試料へ到達できるよう、両者を同軸に配置した装置を製作する。同軸配置ができない場合は、He-Ne干渉計によるフィードバック機構の製作も検討する。 第二の課題は、単結晶シリコン太陽電池における過渡反射率および過渡光電流計測である。本課題は、当初、過渡反射率に関しては波長分解計測を予定していた。しかしながら、プログラム演算処理によるロックイン検出システムが適用不可となり、予算内で計測システムを構築することができないため、全反射率計測へと変更する。全反射率計測では電子と正孔を選別して観測することはできないが、過渡反射率からキャリアの生成・緩和ダイナミクスに関する知見獲得を目指す。一方、過渡光電流の計測では、ポンプ光とプローブ光の遅延時間差の関数として光電流を検出する。過渡光電流にも反射率と同様に、キャリア・フォノンダイナミクスを反映した信号が観測されると予想する。反射率と光電流の比較を通じ、超高速ダイナミクスと光電流生成・緩和の因果関係を解明する。本知見は高効率かつ低損失な太陽電池製作のための指針になると考える。
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