研究課題/領域番号 |
20H02704
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岡 大地 東北大学, 理学研究科, 助教 (20756514)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アンダーソン局在 / 金属絶縁体転移 / 酸化物 / 酸窒化物 / エピタキシー |
研究実績の概要 |
本年度は遷移金属酸化物および希土類金属酸化物を対象に高品質なエピタキシャル薄膜を合成し、不規則性・次元性・軌道分布が電気伝導性に与える影響を調査した。 ペロブスカイト型ニオブ酸化物の酸素アニオンサイトの一部を窒素で置換することで不規則性を導入した。昨年度までの研究で観察された金属絶縁体転移は、従来の半導体材料のように電子間相互作用では説明することができず、アンダーソン局在が起源となっていることを定量的に説明することに成功した。一方で、本手法では結晶構造に欠陥を生じることなく不規則性を導入することができるため、アンダーソン局在の寄与を系統的に制御する指針が得られた。 次元性の効果を評価するためのモデルとして、4d遍歴電子を持つルテニウム酸化物を対象に電気伝導性を決定づける要因について調査した。これまでに申請者は厚さ数ナノメートルの極薄膜とすることで金属的なルテニウム酸化物が絶縁体に転移する現象を報告していたが、次元性と結晶構造歪みの寄与を分離することが困難であった。そこで、本年度は合成温度の精密な制御によって歪みを広範に制御することに成功し、かつ、電気伝導性への構造歪みの寄与が極めて小さいことを見出した。 軌道分布の大きな5d遍歴電子を持つ希土類金属酸化物では局在4f電子と局在の関係についての知見を得た。4f電子を持たない超伝導体LaOに対し、4f3電子配置にあるNdOは金属的挙動と強磁性を示すが、ルテニウム酸化物と同様に極薄膜化により絶縁化する傾向が見られた。一方、それぞれ4f1、4f2電子配置のCeO、PrOでは磁性相互作用が小さく、極薄膜にしても高い電気伝導性が保たれた。これらの結果から、4f電子数を制御することでアンダーソン局在を誘起する電子散乱源の濃度を制御できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに多様な遷移金属酸化物・複合アニオン酸化物・希土類金属酸化物をエピタキシャル薄膜として合成し、その電気伝導性の詳細な評価を進めることができた。これらの化合物は電子配置や結晶構造が大きく異なるにもかかわらず、アンダーソン局在を軸とすることで統一的な理解に向けて確かな進展が得られている。くわえて、多様な化合物の合成を進める中で合成技術も格段に向上させることができた。たとえば、次元性制御の対象として研究を進めている層状バナジウム酸化物エピタキシャル薄膜では、広い範囲での異種元素ドーピングが可能であることがわかってきた。また、ミスト化学気相成長法を用いることで窒素以外のアニオン種を複数、導入することにも成功している。このような合成技術の向上により、計画立案当初では合成困難と考え、対象外としていた複雑な電子配置を持つ6族遷移金属・典型金属元素や後期希土類金属からなる化合物における不規則性・次元性・軌道分布の制御も計画期間中に実施できる見込みが得られている。実際に、ガドリニウムやホルミウムといった後期希土類金属の単酸化物を合成したところ、高い電気伝導性を示す前期希土類金族の単酸化物とは対照的にモットギャップの形成による絶縁性と100 K以上の高い転移温度を持つ強磁性が観察された。したがって、これらの元素は磁性にもとづく不規則性の導入に有用であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、対象とする元素種を拡大して酸化物および複合アニオン化合物のエピタキシャル薄膜を合成し、電気伝導性の詳細な評価に基づき軌道分布、不規則性、次元性を3軸とする金属・絶縁体相図上にデータ点を追加する。 具体的には、結晶構造の層状化によって次元性制御手法を確立した遷移金属酸化物ではバナジウムなどのd1電子系に加えてd2電子系となる6族線金属元素の導入を試みる。また、軌道分布の拡大が期待される4d系、5d系の高周期元素の導入にも取り組む。これらの化合物において、これまでに作成した相図に基づく電気伝導性の予想が妥当かどうかを検証する。 不規則性制御に有用な酸素サイトへの異種アニオン導入の実験的手法は未だ限定的であるため、蒸気圧の高いアニオン組成の制御に有効と考えられるミスト化学気相成長法によるアニオン組成制御に取り組む。酸化物薄膜合成に用いる真空合成手法との親和性を高めるために、ポスト処理への活用も模索する。 アンダーソン局在が超伝導に及ぼす影響を実験的に検証するために、超伝導体LaOに対して、Prなど、電子散乱源となり得る他の希土類金属元素を導入し、電気伝導性や磁性の変化を調査する。不規則性に加えて、薄膜の厚さによる次元性の制御によって、局在現象が抑制される条件の検討を行う。
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