本年度は前年度までの知見に基づき、超伝導性の発現が期待される遷移金属酸化物、複合アニオン化合物、希土類金属単酸化物のエピタキシャル合成と電気測定に取り組んだ。 研究当初は合成例の多いd0からd1電子状態の化合物を対象に軌道分布、不規則性、次元性を制御することで超伝導を発現する母物質の探索を計画していたが、研究の推進により合成技術を大きく向上させることができたため、より占有電子数が大きな物質群に研究対象を拡張することが可能となった。たとえば、高温超電導の発現が理論予測されていながら、合成の困難さから実験的な電気測定が未検証のd2電子状態Sr3Cr2O7のエピタキシャル合成に初めて成功した。酸素欠損を導入すると、電子相関と局在効果のシナジー効果によって室温で5桁程度の電気抵抗の変化を観察した。研究期間中においては超伝導の観察には至らなかったものの、組成制御技術を確立することができたため、理論予想された超伝導の実現に向けて技術的な基盤が構築できたと考えている。 異常原子価を有するd1電子状態の希土類単酸化物では4f電子数の異なる複数の組成の薄膜をエピタキシャル合成することに成功した。合成の観点からは、同じ岩塩構造のCaOなどのアルカリ土類金属をバッファー層として用いることで高純度化に成功し、たとえば、GdOでは強磁性転移温度の向上が観察された。また、超伝導を示すLaOと弱強磁性を示すPrOのヘテロエピタキシャル構造を作製したところ、超伝導転移温度は低下するものの、PrOの磁性とカップリングするような超伝導転移の特異な磁場応答が観察された。磁性や局在の観点から電子相関を議論するための基礎的な知見になり得る。
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