研究課題/領域番号 |
20H02709
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
前里 光彦 京都大学, 理学研究科, 准教授 (60324604)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スピン液体 / 電界効果トランジスタ / モット絶縁体 |
研究実績の概要 |
陰イオン層に乱れの無い新規モット絶縁体kapper-(ET)2Cu[Au(CN)2]Cl塩の単結晶試料の合成を行い、いくつかの良質な単結晶を得た。その試料を用いてSQUIDを用いた磁化率測定を行った。その温度依存性を三角格子ハイゼンベルグモデルで解析し、交換相互作用の大きさを見積もることに成功した。さらに、ミクロスコピックなプローブである1H-NMRの測定により、極低温の0.45 Kまで磁気転移を示さないスピン液体的挙動を示すことを見出した。また、クランプ式の圧力セルと3He冷凍機を用いて低温高圧下での伝導度測定を行い、周辺電子相を詳しく調べた。約4 kbarでモット転移が観測され、金属-絶縁体転移近傍で抵抗がlogTに比例する特異な振る舞いを示すことが分かった。さらに試料によって、低温で超伝導転移を示唆する抵抗減少を示すものと示さないものがあることが分かった。今後、試料依存性も含めて詳しく調べる予定である。 また、有機三角格子スピン液体kapper-(ET)2Cu2(CN)3の薄膜単結晶の作成に成功し、それをポリエチレンな二レート(PEN)基板やポリスチレン(PS)基板に貼り付けて抵抗の温度依存性の測定を行った。試料と基板の熱収縮率の違いから、PS基板を用いると効率的に圧縮ひずみを印加できることが分かった。モット転移近傍に位置するように基板からのひずみを利用しながら、電界効果についても検証を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
陰イオン層に乱れの無い新規モット絶縁体kapper-(ET)2Cu[Au(CN)2]Cl塩について、交換相互作用Jの評価に成功し、さらに極低温まで磁気転移しないスピン液体的振舞を示すことが分かった。 一方で、圧力下伝導度測定から、試料依存性があることが分かってきたため、複数の試料を用いた実験を行う必要が出てきた。
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今後の研究の推進方策 |
有機スピン液体候補kapper-(ET)2Cu[Au(CN)2]Clおよびその類縁体の良質な単結晶試料を効率よく合成する条件を確立する。常圧および高圧・極低温下での電気伝導度測定、SQUID及びESRによる磁化率測定などを行い、試料依存性も含めて低温電子状態について丁寧に調べ、基底状態及び周辺電子相の解明を行う。Cu2+イオンの混入によりキャリアドープされたスピン液体となっている可能性を調べるために複数の試料に対しESR測定を行う。最終的に、スピン液体の本質解明を行う。 また、有機三角格子モット絶縁体kapper-(ET)2M2(CN)3 [M= Cu, Ag]などの薄膜試料ををポリエチレンナフタレート(PEN)などの基板に貼り付けてデバイスを作成し、ゲート電圧印加によるスピン液体の相制御を行う。さらに、水素イオン照射によるキャリアドープの方法も検討し、多角的にスピン液体の相制御を行う。 スピンホール効果を利用してPt電極などから有機三角格子モット絶縁体にスピン流を注入し、さらにもう一方のPt電極を用いて逆スピンホール効果によりスピン流を検出することを試みる。
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