研究課題
励起状態分子内プロトン移動(ESIPT)を示す2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾール(HBT)の発光量子収率Φは、固体状態では高い値(Φ ~0.61)を示すが有機溶媒中では~0.01まで低下し、これがC-C単結合周りの回転を起点とする無輻射失活過程によるものであることを、これまでの研究で見出してきた。本研究では、これを抑制するための分子設計を追究し、設計・合成した化合物が溶液状態(Φ ~0.20)でも固体状態(Φ ~0.32)でも高い量子収率を示すことを実証し、その理論的な裏付けを行った。具体的には、共役拡張置換基であるフェニレンエチニレン基をHBT骨格へと導入することで、励起状態でのenol => ketoへのESIPTを伴う異性化後に分子内炭素-炭素結合の捻れのエネルギーバリアが高くなり、無輻射失活が抑制されるという機構を明らかにした。導入する置換基としては、フェニレンエチニレン基が最も効果的であり、続いてエチニル基、続いてフェニレン基であった。一方で、ビニル基とフェニレン基は同程度であった。不飽和三重結合の導入が劇的な効果を及ぼすことが示された。励起状態量子化学計算でもこの傾向は確認することができた。この新規に開発した液晶性HBT誘導体は、その棒状構造からネマチック液晶性を示し、典型的な室温液晶である4-cyano-4'-pentylbiphenyl(5CB)に6 wt%という高濃度でドープした際にも均一混合液晶を形成した。この混合液晶は、液晶セル中で配向し、偏光発光特性を示した。その配向は電場により変化させることが可能であり、それに伴い発光強度も変化することを確認した。
2: おおむね順調に進展している
ESIPT性を有する化合物の媒質中での無輻射失活を抑制する分子設計や、液晶性を付与する分子設計について知見が豊富に集まり、予定通りの進展が見込めた。
今後は物性・機能面の展開をおこなう予定である。以下に代表的なものの概要を記載する。1) 液晶光配向剤の特性検討:ゲスト添加によるホスト液晶の光配向(Janossy効果)の可能性について、Ar+レーザーを用いて干渉縞の存在により評価する。液晶中における ESIPTドーパントの選択励起および基底状態と励起状態におけるドーパントと液晶分子間相互作用の変化によって発生するトルクが配向変化をもたらすと考えられている。2) 自発光性ディスプレイの検討:蛍光性液晶の偏光発光性を有効活用し、液晶デバイスを作成する。TN(ツイストネマチック)型の液晶セル中にホスト液晶/ドーパントを導入することで、電場に応答して発光強度のスイッチングが可能な素子を作製・実証する。3) 偏光発光自立フィルムの作製:固体中で高い発光効率である凝集誘起発光性を積極的に活用した応用をおこなう。すなわち、重合性液晶中にESIPT蛍光ドーパントを分散させ、分子配向させた状態で重合することで、偏光発光性を有する自立高分子膜を得ることを目指す。重合性ホスト液晶中にESIPT蛍光液晶をゲストとして一定濃度(5wt%等)で分散させ、液晶セル中で配向させ、その後に光重合することで自立フィルムを得る。4) 自然増幅光と液晶レーザーへの展開:ネマチックやコレステリック液晶中のESIPT発光体について、パルスレーザー励起により自然増幅光の発生とその閾値評価を行う。液晶の放熱性の高さの影響を考察する。コレステリックレーザーとしての応用も検討する。
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