研究課題/領域番号 |
20H02712
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
中田 聡 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 教授 (50217741)
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研究分担者 |
長山 雅晴 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (20314289)
北畑 裕之 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (20378532)
伴野 太祐 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (70613909)
末松 信彦 明治大学, 総合数理学部, 専任准教授 (80542274)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 非線形 / 自己駆動 / 非平衡 / リズム / パターン / 自己組織化 / 分岐 / 振動 |
研究実績の概要 |
当該年度に実施した、非線形科学に立脚した自己駆動体の構築に関する研究成果は次のとおりである。 1.可逆的走化性の実験系の構築:これまでの無生物自己駆動体による走化性の研究報告のほとんどが、正または負の単指向走化性のみであった。ところが実際の生物では、採餌等走化性の目的を達したら、その場から立ち去ることができる可逆的走化性である。そこで本研究では、可逆的走化性を示す自己駆動体の構築を目的とした。具体的には、自己駆動体として6-メチルクマリン(6-MC)円板を使用し、塩基の化学刺激としてリン酸三ナトリウムを使用した。その結果、表面張力の高い化学刺激に対して表面張力の低い自己駆動体が正の走化性を示し、化学刺激上でトラップされる一方、塩基と6-MCとの化学反応が終わると、化学刺激上から脱出できる、可逆的走化性の構築に成功した。そして駆動力である表面張力測定、pH指示薬による時空間的pHの可視化、及び反応拡散方程式と運動方程式からなる数理モデルによる数値計算によって、可逆的走化性の機構を解明した。 2.酵素反応とカップリングした特徴的な運動様相を示す自己駆動体の構築:酵素反応系は、化学振動反応等、非線形性の高い化学反応と知られている。そこで本研究では、自己駆動体の自律性と非線形性を高めるため、酵素反応とカップリングした自己駆動体の構築を目的とする。具体的には、ウレアーゼの反応速度のpH依存性(ベル型特性)を活用した。その結果、初期pHを弱酸性にすると、尿素発生によるpH上昇が反応速度を高めるポジティブフィードバックが働き、振動運動を誘発することを明らかにした。その機構を明らかにするために、pH指示薬によるpHと運動速度の同時測定を行った。 3.界面活性剤存在下における自己駆動体の深さ依存性:反応拡散系に基づき、ドデシル硫酸ナトリウム上で運動する樟脳円板と水層の深さ依存性について解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、可逆的走化性に関しては、予定通り、反応機構、駆動力、可逆的走化性の機構が解明されるとともに、数値計算により機構の正当性を確認する等、研究が順調に進んだ結果、研究成果が、国際学術論文(ChemSystemsChem)に掲載され、表紙を飾ることとなった。現在、クマリン誘導体による反応速度と走化性との関係や、複数個の駆動体又は化学刺激を使った実験等、研究の新たな展開へと進むことができている、 次に非線形性と自律性を高める研究についても、反応のダイナミクスとの関係が明らかになる等、研究が順調に進展した結果、研究成果を国際学術論文(Chem. Asian J.)に掲載するレベルまで到達した。さらに現在、他の化学振動反応系とのカップリングや両親媒性分子の導入等による実験系の改良へと発展させている。 そして、界面活性剤を含む水相に浮かべた樟脳円板の運動速度と水相の深さ依存性に関する研究成果については、数値計算による再現にも成功し、これらの成果を国際学術論文(Colloid Surf. A)に掲載された。この系については、自己駆動体の容器の深さ依存性を明らかにするための研究へと発展させている。 その他、化学振動反応の時空間パターンの電気化学的制御に関する研究や非線形振動子のカップリングによる同調現象で見られる時空間パターン変調、膜界面における非線形性の評価等、本研究に関して重要な知見となる非線形現象の結果が得られている。 以上のように、研究計画に基づいて本研究課題は順調に進捗しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
まず自己駆動体の自律性を高めるために、非平衡開放系を自発的に維持できるような系の構築を作成する。具体的には場(例えば気水界面)からの物質輸送をマランゴニ流で増幅し、常に高い駆動力を維持できるようにする。これにより持続可能な自己駆動体の構築が実現できると考えている。さらに走化性の研究の発展として、クマリン誘導体を用いた研究を行う。具体的にはクマリン、4-メチルクマリンを使用し、分子構造に依存した運動様相発現を実現する。ここで特にカギを握るのは反応速度と表面張力であるのでこれらを評価する。 次に時空間パターンが運動様相にフィードバックする系について取り組みたい。具体的には化学振動反応系とのカップリングを導入した実験系を行うと共に、数理モデルによる数値計算結果に基づいたメカニズムの検証と新たな実験系の開発を行う。 また、三次元系の自己駆動体に着目した研究を行いたい。これまでは二次元系の運動について研究をしてきたが、3次元的な運動が生じる条件と3次元系が反映された駆動体条件を見い出したので、それらについて深化させたい。 更に複数個の自己駆動体とのカップリングを行い、場に依存して特徴的な時空間パターンを形成する集団運動の発現とその機構解明を行う。 そして、分子レベルからの自己駆動体の駆動力制御分子として、新規の両親媒性分子を合成し、分子レベルからマクロに時空間発展する自己駆動系を構築する。
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