近年、クリーンなエネルギー源である太陽光を光源として、燃料電池の燃料となる水素を製造する人工光合成や、有害物質の分解や抗菌などを行う光触媒に関する研究が多く行われており、その効率の向上が求められている。特に紫外光(波長400 nm 以下)の照射により高効率な光触媒反応が達成できるが、地表に届く太陽光のうち紫外光の割合は限られ、大部分は波長400 nm以上の可視光や赤外光である。可視光から紫外光へのTTA-UCの中でもより高いエネルギーを有する波長315 nm以下のUVB光に変換することは、光エネルギーを用いた有用化合物の製造や、殺菌、排水中の有害物質の分解に有用である。UVB光は太陽光にはほとんど含まれず、人工的に生成するには水銀灯などの効率の悪い光源を使用するのが一般的であるため、太陽光や効率の良いLED光に含まれる可視光をUVB光へと変換することは応用上重要と考えられる。しかし従来のTTA-UCでは、高エネルギーなUVB光を生成することは困難であった。より短波長の蛍光を得るために以前に開発した発光体分子TIPS-NPhのナフタレン環をベンゼン環に置き換えた分子TIPS-Bzを用いた。ドナーとしてはTIPS-Bzの三重項を増感できるほど高い三重項エネルギーを有する熱活性型遅延蛍光(TADF)を示す4CzIPNを用いた。4CzIPNとTIPS-Bzの混合溶液を青色光で励起したところ、4CzIPNからTIPS-Bzへの三重子エネルギー移動が起き、その後TIPS-BzがTTAを起こすことで波長 315 nm以下のUVB領域にUC発光を示した。これはTTA-UCメカニズムによりUVB領域に明確なアップコンバージョン発光を得た初めての例である。更に市販の青色LEDを光源として使用し、発生した紫外光を利用して、通常であれば非常に厳しい反応条件を必要とする強い化学結合の切断を行うことにも成功した。
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