研究実績の概要 |
本年度は様々な相転移現象を熱化学電池に導入し、小さな温度差で電圧を形成することで高いゼーベック係数の実現を目指した。第一に、PNIPAMのLCST相転移を用いた熱化学電池の構築を行った。ポリN-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAMは)は、温度上昇に伴って親水性から疎水性への相転移を示すことが広く知られている。このPNIPAMにアクリル酸を共重合することで、低温で酸性、温度上昇に伴って中性へと溶液のpHを変化させられることが報告されていた。この共重合体の溶液にキンヒドロン(p-ヒドロキノンとパラキノンの1:1混合体)を酸化還元種として加えることで、-6 mV/Kを超える非常に大きなゼーベック係数が得られることを実証した。さらにアクリル酸の代わりにアミンを共重合させることで、アルカリ性-中性の相転移を実現し、それにより+6mV/Kを超えるn型の熱化学電池の構築にも成功した(J. Am. Chem. Soc. 2020、17318)。 第二に、1電子多プロトン型のプロトン共役電子移動反応を用いた熱化学電池の構築を行った。ルテニウムトリスビイミダゾール錯体は弱アルカリ性条件下で1電子多プロトン反応を起こすことが知られていた。これを熱化学電池に利用することで、-3.7 mV/Kにおよぶ高いゼーベック係数が得られた。本成果はChem. Eur. J. 2020, 4287に報告され、HOT Paperに採択された。 他にもフェロシアン化物イオンとフェリシアン化物イオンとのミセルへの相互作用の違いを利用したもの(Chem. Lett. 2020, 1197)や、シクロデキストリン誘導体の凝集を利用したもの(Chem. Commun. 2020, 7013)などの多様な熱化学電池を報告した。
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