研究課題/領域番号 |
20H02717
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
清水 智子 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (00462672)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 走査型トンネル顕微鏡 / フォトクロミック分子 / 単分子反応 / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
2年目は、銅Cu(111)表面上に孤立吸着したジアリールエテン分子に対し、走査型トンネル顕微鏡(STM)の探針からトンネル電子を注入すると、どのような変化が現れるかの検証を中心に研究を進めた。これは、初年度に光反応の誘起が非効率であることが明らかになったため、異なる方法による励起を検証する必要が出てきたためである。 実験は全て超高真空環境および液体ヘリウム温度(約5 K)で動作するSTMを用いて実施した。清浄化した銅Cu(111)表面に吸着させた閉環体のジアリールエテン分子は、2.5 V以上のエネルギーをもった電子を注入することで、反応を誘起できることが分かった。これは分子の空軌道を介した反応である。反応後の分子の形状は、開環体を吸着させて得られるものとは異なった。これは、電子注入による反応は光照射で得られる異性化反応とは異なることを示唆する。また、反応後の分子にさらに電子を注入しても、元の閉環体に戻ることはなかった。この不可逆性は、分子の一部が構造変化した、例えば水素やフッ素が解離して異なる化学種に変化したことを予測させる。予測の妥当性を確かめるため、共同研究者に第一原理計算およびSTM像シミュレーションによる検証を実施してもらった。いくつかの考えらえる反応の中から、中心の6員環にあるメチル基から水素が解離するというモデルが適当であると判断された。以上から、銅基板に吸着したフォトクロミック分子は、特定の電圧以上を掛けて電流を流すと、脱水素反応が優先的に起こることが明らかとなった。 並行して、2次元表面・界面における分子の自己組織化構造とその機構の理解を深めるため、ジアリールエテン以外の分子に対しても研究を実施した。分子間相互作用と2次元という場の重要性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最初の2年間で、銅Cu(111)上でのジアリールエテン分子の反応に関する検証は全て終えられた。2021年度に予定した、上述の電子注入による化学反応の検証実験は全て年度内に終了した。データの解釈に時間が必要であったため繰越をしたが、国際共同研究により、理論的な解釈を得るまでに至った。 また、分子の自己組織化に関する知見も実験・シミュレーション両側からのアプローチで結果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度と2年目の銅Cu(111)表面上での光と電流誘起によるジアリールエテン分子の反応結果を踏まえ、最終年度は、銀Ag(111)での検証を実施する。まず銀Ag(111)に分子を吸着させると、銅Cu(111)と同様に孤立吸着するのか、加熱すると綺麗に周期的な構造ができるのか、または他の状態となるのか、をSTMにより構造観察する。その後、電子注入および光照射による反応の有無、起こる場合はどのような反応が起きているのか、可逆性はどうか、等を検証する。 銅と銀では分子の吸着の強さが異なることから、反応経路、反応機構も異なる可能性がある。可逆的なスイッチングが起こる条件はあるのか、調査する。
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