研究課題/領域番号 |
20H02718
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設) |
研究代表者 |
江原 正博 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 計算科学研究センター, 教授 (80260149)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 量子状態理論 / 不均一系触媒 / 合金微粒子 / 光機能システム / カーボンナノチューブ |
研究実績の概要 |
本研究課題では,複雑・複合系の強相関電子状態を精密に記述する新しい基礎理論の開発を行い,表面量子状態が重要となる不均一系触媒の触媒作用や光機能システム系の物性発現の微視的メカニズムを解明し,その知見に基づいて不均一系触媒および光機能システム系の設計・制御に取り組んだ。2020年度は下記の研究を実施し,研究発表で示す研究成果を得た。また新型コロナの拡大の影響があり,2021年度に研究の一部を延期して実施した。 (1)合金微粒子の幾何構造や電子状態,触媒活性点,触媒サイクルに関する基礎研究を実施した。特に合金微粒子触媒として,結合が強固なC-F結合活性化を行う凝縮相Pd-Pt合金微粒子触媒系の反応機構を解明し,反応のエネルギー・プロファイルを明らかにした。(2)担持微粒子触媒として,パラジウム-金/アルミナ系のヒドロシリル化反応の理論解析を実施し,反応がChalk-Harrod機構に従うことを明らかにした。(3)光学物性の量子化学計算の逆問題に基づく独自の量子逆設計理論を発展させ,一次元光機能性分子集積系に適用し,強い光吸収・円二色性をもつ集合体の分子組成・構造を提案した。(4)単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の化学修飾による量子欠損の生成や近赤外光発光の波長制御に着目した研究を実験と協力して推進した。特に,カイラル指数と置換基の導入位置の相関について系統的な研究を実施した。また,一次元ポリカルボシラン化合物のσ共役に基づく特徴的な励起状態に関する研究を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題で当初計画していた「不均一系触媒および光機能システム系」の研究を実施することができ,さらに基礎となる理論・方法の構築,プログラムの実装をすることができた。 (1)では,特に凝縮相Pd-Pt合金微粒子によるC-F結合活性化の反応機構を解明し,実験結果を再現する反応エネルギー・プロファイルを明らかにした。同位体効果や水素源について実験を説明する結果を得た。(2)担持金属微粒子触媒の研究では,パラジウム-金/アルミナ系のヒドロシリル化反応の反応機構を解明した。反応はChalk-Harrod機構に従うこと,律速段階はPd-Au合金クラスターではヒドロメタル化であり,Pd-Au(111)表面ではSi-Cの還元的脱離であること,Pdサイトおよび周辺のPd-Auサイトが吸着や活性中心として重要であり,これは均一系触媒にはない不均一系合金触媒の特徴であることを示した。(3)光物性の逆問題に基づく独自の量子逆設計理論を実装し,応用することに成功した。さらに分子励起子-プラズモン系の量子逆設計理論の開発を開始した。(4)修飾単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の近赤外発光の理論解析に関する研究を実施した。これらの研究では先進的な研究を推進する実験・理論分野の国内外の研究者と共同研究を実施した。 以上のとおり,各研究項目について順調に進展しており,研究発表も十分であると考える。これらのことからおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では,複雑・複合系の強相関電子状態を精密に記述する新しい基礎理論の開発を行い,表面量子状態が重要となる不均一系触媒の触媒作用や光機能システム系の物性発現の微視的メカニズムを解明し,その知見に基づいて不均一系触媒および光機能システム系の設計・制御に取り組む。主に下記の研究に取り組む。(1) 合金微粒子の幾何構造や電子状態,触媒活性点,触媒サイクルに関する基礎研究を引き続き行う。特に,Pt-Co合金系など燃料電池として重要となる合金微粒子触媒の酸素分子の結合活性化や酸素還元反応活性を検討する。(2) 様々な担持微粒子触媒における量子効果・担体効果に関する理論解析を実施し,微粒子触媒開発に必要な知見を得る。特にPt/グラファイト系などの基礎研究を実施する。(3) 光学物性の量子化学計算の逆問題に基づく独自の量子逆設計理論をさらに発展させ,分子-金属ナノ粒子系の局在表面プラズモンなどの大規模系に適用できるように方法を拡張する。この理論を分子―ナノ粒子系に適用し,吸着分子の分子種・空間配置,入射場,ナノ粒子の金属種・金属形状を最適化することを試みる。(4) 単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の化学修飾による量子欠損の生成や近赤外光発光の波長制御に着目した研究を,実験と協力して推進する。さらに一次元ポリカルボシラン化合物のσ共役に基づく特徴的な励起状態に関する研究をまとめる。
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