研究課題
電子欠損性ホウ素化合物の反応性についての新知見として、9-ボラフルオレン誘導体に対して歪みアルキンであるシクロオクチンを作用させることで、複数のアルキン分子がボラフルオレンのB-C結合に挿入する反応について、理論化学計算を含めた反応メカニズムと生成物の構造および反応性について詳細に検討した。9-クロロ-9-ボラフルオレンにシクロオクチンを2当量作用させることで、シクロオクチン2分子がボラフルオレンのB-C結合に挿入した含ホウ素9員環化合物が定量的に生成した。単結晶X線構造解析により、この生成物の詳細な分子構造を明らかにした。興味深いことに、分子内でホウ素とオレフィンが近接しており、理論計算により見積もったホウ素-オレフィン相互作用は約31 kcal/molであった。一方、この9員環化合物のホウ素上の置換基をClから電子供与性のメトキシ基に変えた化合物の場合、ホウ素-オレフィン相互作用は約7 kcal/molにまで減少する。よって、これら含ホウ素9員化合物では、ホウ素部位のルイス酸性度に依存したオレフィン部位との近接相互作用が働くことを明らかにした。このホウ素-オレフィン相互作用の強さの違いは、9員環化合物の化学反応性にも反映される。9員環化合物にさらに過剰のシクロオクチンを作用させた場合、ホウ素上の置換基がClの場合にはもう一分子のシクロオクチンが挿入した後に骨格転位が進行し、挿入反応が停止するのに対し、メトキシ基の場合には転位反応が抑制され、連続挿入体の混合物が得られる。以上、ホウ素-オレフィン相互作用が含ホウ素マクロサイクルの構造と反応性に大きく影響することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
実績の概要に記載した通り、研究計画において主目的として設定した、電子欠損性ホウ素化合物を用いた連続的な炭素-炭素結合形成および切断反応の開発については、含ホウ素π共役マクロサイクルの形成および骨格転位反応を見いだし、順調に進行している。ホウ素-オレフィン間の相互作用は、ホウ素化合物が媒介する様々な有機反応の鍵となる相互作用であり、それを実験的に実証するとともに、化学反応性への影響を明らかにした本成果は、学術的に重要なものと考えている。よって、本研究は「おおむね順調に進展している」と判断した。
引き続き、含ホウ素π共役マクロサイクルの構造と反応性を精査し、ホウ素が引き起こす連続的な炭素-炭素結合形成および切断反応を検討する。当該研究項目においては、既に明確な進展が得られたため、今後、加えて、新しいタイプの電子欠損性ホウ素化合物の開発に取り組み、その性質と反応性を探究する。具体的には、π共役系の炭素-炭素結合を等電子的かつ分極したB-N結合に置き換えた化合物、カチオン製ホウ素化合物などを開発し、それぞれの物質系において、性質や反応性を深く探求する。この取り組みを通じて、新たな物質変換反応の開発やホウ素が織りなす新機能創出を目指す。
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Angewandte Chemie International Edition
巻: 60 ページ: 14630~14635
10.1002/anie.202103512
http://fuku.res.titech.ac.jp